患者さんと
ご家族へのインタビュー
〜血友病と生きる
私たちのいろんな気持ち〜

本記事は、血友病について実際の患者さんの体験談を紹介しています。特定の患者さんの体験を紹介したものであり、典型的な患者さんの体験を紹介するものではありません。気になる症状や医学的な懸念がある場合、また、適切な診断と治療を受けるためには医療機関を受診ください。
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INTERVIEW

患者が治療を選べるように、
みんなが笑って生きられるように。
その思いで活動しています

患者が治療を選べるように、みんなが笑って生きられるように。その思いで活動しています〜阪口直嗣さん
若者のためにコミュニティを盛り上げたい、言葉の力で人を救いたい、と数々の経験や考えを話してくださいました
血友病と生きる私たちのいろんな気持ち〜阪口直嗣さん
阪口直嗣さん
大阪府在住
看護師

2000年生まれ。看護師。患者会の活動にも力を入れている。
2000年生まれ。
看護師。患者会の活動にも力を入れている。
阪口さんは精神科の看護師として勤務しながら、血友病患者会の理事や、若年層を対象とした患者コミュニティの代表としても精力的に動き回っています。看護師の仕事や患者会の活動で目指すこと、そして患者やご家族の方々に伝えたいことをうかがいました。
「野球をやりたい」と
自分の意思を伝えたことから
生活が変わった
生後半年のときに、ほんのわずかな衝撃を受けただけでぐったりとしてしまい、病院に行ったところ脳出血を起こしていました。そこで血液検査をして、血友病Aの重症と診断されました。
小学生になって野球やサッカーをやりたかったのですが、親に止められていました。しかし中学校に入り、やはりどうしても野球をしたかったので「僕は野球をやりたい。やらせてほしい」と泣きながら父に訴えたんです。すると父は「そこまで言うなら自分もサポートする」と言って病院に一緒に行き、主治医の先生と話してくれました。先生も認めてくれて、何度も血液検査をし、薬剤の量を決めて、野球を始めることができました。
その時点では、薬剤は父に打ってもらっていました。自分で打つのが怖くて。でも、野球をするなら自分で注射できるようにならなくてはと思って挑戦し、できるようになりました。
小学生のときは「友だちに誘われたからやりたい」というように、友だちを理由にして親に話していたんですね。でも中学生のときは「自分がやりたいんだ」と意思を示しました。それに対して親も協力してくれて、本当にうれしかったです。
「野球ができることになって『うれしい、やったー!』と思いましたね」と笑顔で振り返ります
「野球ができることになって『うれしい、やったー!』と思いましたね」と笑顔で振り返ります
患者としての体験から看護師を目指す。
言葉を通して人を救いたい
看護師を目指すきっかけは、小学校5年生で急性虫垂炎の手術をしたことです。血友病の専門医がいる病院ではありましたが、自分にとって初めての手術で、猛烈に不安で怖い。もしかしたら大出血してしまうかもしれない。「俺、死ぬのかな」と眠れなかった夜に、夜勤の看護師さんが僕の話をずっと聞き、眠りにつくまで手を握っていてくれたのです。
その後、高校生になって靭帯を切ってしまったことなどもありましたが、寄り添って助け、支えてくれるのはいつも看護師さんでした。
もちろん医師も、病院でずっと接し、見てきた存在でしたが、僕はこう考えました。医師は病気の治療をします。もちろんそれは大切なことです。でも患者の気持ちを聞く機会がいちばん多いのは看護師です。患者の気持ちや抱えている不安を知って、助けたい。言葉は人を傷つけることがあり、僕自身、他人の言葉で嫌な気分になったこともたくさんあります。でも、言葉が人を助けることもあります。僕は言葉を通して人を救える職業である看護師を目指したいと思いました。
お父様に「看護師になろうと思うけど、どう思う?」と話したところ、「めっちゃええやん」と応援してくれたそうです
お父様に「看護師になろうと思うけど、どう思う?」と話したところ、「めっちゃええやん」と応援してくれたそうです
世界会議への参加を機に看護師になりたい思いが再燃
ところが高校3年生で受験した学校はすべて不合格。自分の将来が見えず、もやもやした感情を抱えながら浪人していたときに、イギリスで開催される「WFH(World Federation of Hemophilia、世界血友病連盟)」の世界会議に参加する機会が訪れました。僕が看護師を目指していることを知っていた大阪の患者会の先輩が、一緒に行こうと声をかけてくれたのです。その会議には看護師に関する講座もあると知り、「行きたい!」と飛び込んでいきました。
イギリスへ行き、英語はできないけれどなんとか話を伝えたいと、身振り手振りでコミュニケーションをとりました。もともと人見知りだったのですが、帰国後はガラッと性格が変わりましたね。
会議の内容は、英語で書かれた資料を見て携帯で翻訳しながら理解しようと努めました。国によっては使える薬が限られている、日本とは保険制度が異なるといった事情を知り、「看護師になったら海外にも活動の場を広げて人を助けられるかもしれない」と、看護師を目指す気持ちが再燃しました。
この経験を経て、その年の受験では面接で本音を話すことができました。それが良かったようで複数の学校に合格することができました。学校で看護師としてのコミュニケーションスキルを学んで、現在は、精神科の病院で勤務しています。
阪口さんの「人見知りだったんです」という発言に対して、インタビューチームが思わず「本当ですか?」と言ってしまうほど、率直に話してくださいました
阪口さんの「人見知りだったんです」という発言に対して、インタビューチームが思わず「本当ですか?」と言ってしまうほど、率直に話してくださいました
自分で決めたように生きるために、
希望を口に出す。
それができる場を作っていきたい
自分のこれからの生活を決めるのは、自分です。自分で、自分の道を切り開いていかなくてはなりません。だから、自分がやりたいことを医師と相談したうえで治療していくという方法を推進していく必要があると思います。
自分のやりたいことを相談しやすくするツールとして 海外の血友病サポート団体が作成したSDMに関するサポートツールがありますが、本人にしてみればやはり言いづらいですし、意思表示をするのは難しいことです。
自分の意思をなかなかおもてに出せない人のために何ができるだろうかとずっと考えていたところ、患者が自分の意見を出せる場がないという課題に気づきました。そこで、「全国ヘモフィリアフォーラム2023」で、夢をきっかけとして血友病患者が話し合う分科会を企画、実施しました。発言する内容は何でもいいんです。「スポーツ選手になりたい」でも「アニメの主人公やヒーローになりたい」でも。大切なのは意見を言えたという達成感であり、意見を出したら「いいね」と受け入れてもらえる場です。
今後は僕らが主体のイベントを企画して発言できる場を作り、集まってくれた人全員の言いたいことを聞きたいと思っています。
※SDM:

シェアドディシジョンメイキング(Shared Decision Making)の頭文字をとった言葉。質の高い医療についての決定を促進するために医師と患者の間でおこなわれる、入手可能な最良のエビデンスと患者の価値観や好みを統合する協働コミュニケーションプロセス(SpatzES. JAMA, 2016 )。ヘモフィリアステーションでも「目標設定シート」をご用意しておりますのでご活用ください。

お子さんはやりたいことを親に話してほしい、親御さんは「話してくれてありがとう」と受け止めてほしい、と阪口さんは語ります
お子さんはやりたいことを親に話してほしい、親御さんは「話してくれてありがとう」と受け止めてほしい、と阪口さんは語ります
子どもたちを助け、
未来につなげるために、
若年層患者向けコミュニティの
運営を始めた
イギリスで参加した「WFH世界会議」で、日本の血友病患者は世界と比べて選択肢が多く恵まれていると感じました。
先ほど、自分のやりたいことを周囲の方と相談し、それに合う治療をしていく方法を推進する必要があるとお話ししましたが、では治療法の選択肢はあるものの、患者は自分に合う薬、自分のやりたいことに合う薬を選べているのだろうか、と懸念を持っています。
いろいろな薬が出てきたことを患者が知る機会は、実はあまり多くはありません。患者会に入っていない場合は主治医の先生くらいでしょうか。患者会では主治医以外の医療関係者の方やメンバーから様々な情報を得る機会があります。ところが現在、患者会を中心的に運営されるメンバーは比較的年齢の高い方が多くなっています。僕は「年の近い人に聞いてみたい」と考えている、子どもや若者、その親御さんたちを助けたいと思うようになりました。
また、地域間格差をなくしたいという思いもあります。大都市圏では血友病を診てもらえる医療機関が多い傾向にありますが、それ以外の地域では拠点病院が遠かったりして患者に新しい情報が届きにくいことがあるようです。
さらに、今の子どもたちや若者が将来も適切な薬を使って夢をかなえられるように、また治療についての知識を得て処方通りに適切に治療を継続できるようにする必要もあると思っています。
このような課題を解決したいという思いから、2022年12月から若年層患者向けコミュニティの活動に取り組みはじめました。
このコミュニティの活動の場は、オンラインです。SNS上にグループでチャットができる場を開設しました。多くの若者が参加し発言できるよう、コミュニティを盛り上げていきたいと考えています。
このチャットをどう運営すればいいかは、まだ手探りです。また、現在利用しているSNSは1つだけですが、今後はほかのプラットフォームも利用して、さまざまな人に情報が伝わるようにしたいですね。
患者会に参加せず孤独を感じている若者を誰ひとり取りこぼさない、地域間格差をなくしたいという理念で、若年層患者向けコミュニティの活動を始めました
患者会に参加せず孤独を感じている若者を誰ひとり取りこぼさない、地域間格差をなくしたいという理念で、若年層患者向けコミュニティの活動を始めました
「2つの武器」で人を支えたい。
みんなが笑って生きられる世界を目指して
オンラインでコミュニティを運営するだけでなく、活動について伝えるために全国各地を飛び回っています。現在、僕はパワフルに動ける年代ですので、20代の間は使える時間をすべて費やし、全力投球で取り組んでいきます。
僕には、血友病患者としての経験と看護師としてのコミュニケーションスキルという2つの武器があります。その武器を活かして、患者会などの場でコミュニケーションをとり、看護師としてアドバイスできますし、話を引き出したり支えたりすることもできます。話したいことがあるなら、あるいは悩みがあるなら、いつでも来てください。
血友病に限らずどんな病気でも、ほかの人からは良くない方向に見られがちです。だから、僕の活動は血友病で終わりではありません。最終的には、世界中のあらゆる病気の患者さんや家族が精神を傷めたときに助けられる存在になりたいと思っています。
患者のお子さんや親御さんには、いつも笑顔でいることを心がけましょうと伝えたいですね。笑顔でまわりの雰囲気は変わります。僕自身、家族に対しても、看護師として患者さんに接するときも、常に笑顔でいるように努力しています。みんなが笑って生きられる世界、それが僕の実現したい未来です。
患者会で親御さんから相談されることも多いそう。血友病のお子さんの運動に関する相談が多いとのこと
患者会で親御さんから相談されることも多いそう。血友病のお子さんの運動に関する相談が多いとのこと

取材後記

阪口さんはインタビューで「僕は言葉の力で人を救いたい」と繰り返し語っていました。その考えを原動力として看護師の仕事と患者会の活動の両輪を回していることについて、たくさん話してくださいました。ありがとうございました。
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