血友病基礎講座(原因、症状と合併症、包括医療システムについて)

血友病基礎講座

歴史の中の血友病

男子2人を割礼後の御し難い出血にて失いし母親は、3人目の男子に割礼を施すべからず

(紀元2世紀バビロニア教典)

紀元4〜5世紀頃にユダヤの伝承書として編纂されたバビロニア・タルムード(旧約聖書を補完するものとして、ユダヤの聖職者(ラビ)達がユダヤ人社会の生活規範、慣習、しきたり等をまとめたもの)の中に、「もし、最初の子が割礼により出血死し、第2子も同様であれば、第3子の割礼を行ってはならない」との記載があり、これは血友病に関する最古の記載であろうと考えられている。

出血から血が止まる(止血)まで

出血から止血まで

出血は、血管の破れた部分から血液が流れ出ている状態です。

出血から止血まで【図1】

この出血から止血までの流れを、堤防が壊れて洪水になった後からそれを修復するまでに例えてみると、以下のようになります。

出血から止血まで【図2】
▲血管が破れたところを血小板がブロックします。

堤防(血管)が壊れて、そこから水(血液)が流れ出ていると、それを止めるために堤防(血管)の破れたところにブロックを積み重ね、流れ出る水(血液)の量を減らそうとします。このブロックの働きをするのが血小板です。

しかし、ブロック(血小板)の隙間から水(血液)がにじみ出したり、圧力がかかった時には積み重ねたブロックが崩れて再び水(血液)があふれ出したりします。
そこでブロックの隙間を埋めて強く固める必要があります。
このブロック(血小板)の隙間を埋めて固めるためのセメントの役割をするのが、凝固因子と呼ばれるタンパク質です。

出血から止血まで【図3】
▲血管が破れたところを血小板がブロック、その隙間を凝固因子というセメントで固めて止血します。

ブロック(血小板)の隙間をセメント(凝固因子)で固めてしまえば、少しぐらい圧力がかかっても、再び水(血液)があふれ出ることはありません。

出血から止血まで【図4】

しかし、この状態はあくまで応急処置が終わっただけで、堤防が元通りになった訳ではありません。強い圧力がかかったりすれば、ブロック塀は壊れてしまいます。
血管自身が元通りに修復しない限り、再出血する可能性が残っていることになります。
血管が完全に修復した時点を、完全な止血と考える方が良いと思います。

止血(出血を止めるためには)

出血を止めるためには【血管】【血小板】【凝固因子】の3つの要素が不可欠

出血を止めるためには、
・血管(堤防のコンクリート)
・血小板(ブロック)
・凝固因子(セメント)
の3つの大きな要素が必要になります。
どれか一つでも働きが十分でない場合、何らかの出血症状が出現します。
血友病では、この3つの要素のうち、凝固因子が十分でないために様々な出血症状が起こります。

血友病とは

血が止まりにくい病気・血友病

血管の破れた部分から血液が流れ出ている状態を「出血」といいます。
出血を止めるためには、
・血管(堤防のコンクリート)、
・血小板(ブロック)、
・凝固因子(セメント)
の3つの大きな要素が必要になります。
参考:出血から血が止まる(止血)まで(血友病基礎講座)

血友病は、この3つの要素のうち、凝固因子が生まれつき不足している病気(遺伝病)です。
血液凝固因子は、約12種類ありますが、血友病は第VIII因子あるいは第IX因子が不足しています。

血友病Aと血友病B

血友病の代表的なタイプは、「血友病A」と「血友病B」があります。
「血友病A」の人は血液の「凝固因子」の中で、第VIII因子が低下しているか欠乏しています。
「血友病B」の人は第IX因子が低下しているか欠乏しています。

第VIII因子が不足しているもの:血友病A
第IX因子が不足しているもの:血友病B

凝固因子レベルで決まる血友病の重症度

血友病は、X染色体に存在する第VIII(IX)因子遺伝子の異常によって、凝固因子が生まれつき不足していることが原因です。
血友病は第VIII(IX)因子の働き(活性)がどの程度あるかを示す、「凝固因子レベル」によって重症度が決まります。凝固因子レベルはパーセントで表示され、正常な凝固因子レベルは50〜150%です。血友病患者さんの場合、凝固因子レベルは正常値よりずっと低くなります。重症の血友病患者さんでは1%未満、中等症は1〜5%未満、軽症では5%以上と幅があります。

【血友病の重症度分類】
重症型:凝固因子活性<1%
中等症型:凝固因子活性 1〜5%
軽症型:凝固因子活性>5%

詳しく見る 血友病ってどんな病気?(タイプや重症度)

血友病Aの罹患率は、1人/男子1万人、血友病Bは、およそその1/5です。

血友病A、血友病Bの重症度は、不足している因子の量(活性)によって、重症型、中等症型、軽症型に分類されます。
日本では、平成25年5月31日現在、
血友病A:4,761人、血友病B:1,008人と報告されています。(平成25年度血液凝固異常症全国調査)

血友病の歴史

血友病の歴史【Royal family Tree】

近世ヨーロッパでは、1853年に英国のビクトリア女王の第8王子として出生したレオポルドが血友病であり、王女2人が血友病保因者であったことから、その王女が嫁いだヨーロッパ各王家(プロシア、スペイン、ロシア)に血友病が伝わりました。
このため血友病はRoyal diseaseとも呼ばれていました。

血友病の遺伝形式(X連鎖劣性遺伝)

血友病の遺伝形式(X連鎖劣性遺伝)

血友病男性が父親(X'Y)、健常女性が母親(XX)の場合(図左)、男児は母親からX染色体1つ(X)が、父親からY染色体が受け継がれるため、すべて健常男児となります。女児の場合は母親からX染色体1つ(X)が、父親からもう一つ(X')が受け継がれるため、すべて保因者となります。

保因者(X'X)の女性が男児を出産した場合(図右)、その男児は母親からX染色体を1つ(XまたはX')、父親からY染色体を1つ受け継ぐため、母親から受け継ぐX染色体がX'の方であれば血友病(X'Y)となります。

逆に母親から受け継ぐX染色体がXの方であれば健常な男児(XY)となり、その確率は50%となります。

保因者の女性が女児を出産した場合、その女児は母親からX染色体を1つ(XまたはX')、父親からX染色体を1つ(X)受け継ぐため、母親から受け継ぐX染色体がX'の方であれば保因者(X'X)となります。

逆に母親から受け継ぐX染色体がXの方であれば健常な女児(XX)となり、その確率もやはり50%となります。

保因者

【確定保因者】

  • 1.血友病男性を父親に持つ女子
  • 2.2人以上の血友病患児を有する母親
  • 3.1人以上の血友病患児と近親者に血友病患者を有する母親

【推定保因者】

  • 1.1人の血友病患児を有する母親
  • 2.母系に血友病患児を有する女性
  • 3.兄弟に血友病患児を有する姉妹

血友病の遺伝子X'を持つ女性を保因者と呼びます。
血友病男性を父親に持つ女子、2人以上の血友病患児を有する母親、1人以上の血友病患児と近親者に血友病患者を有する母親は、この血友病の遺伝子X'を受け継いでいることが確実なので、確定保因者と呼ばれます。

血友病患者の7割は、保因者の母親から生まれています。
しかし、残りの3割は、母親は保因者ではなく、突然変異で血友病となった方々です。

ですから、血友病患児を1人だけ有する母親は保因者であるかどうか確定できません。また、母系に血友病患児を有する女性や、兄弟に血友病患児を有する姉妹も、血友病の遺伝子をもっている可能性はあるものの、確実とはいえません。

このような、血友病の遺伝子を持っている可能性がある方々は、推定保因者と呼ばれます。

結婚や妊娠の際に、遺伝について詳しく知りたくなった場合は、主治医に相談してみてください。

血友病の症状

血友病の症状(1)

血友病は様々な出血症状をきたします。
血友病の出血症状で特徴的なことは、
体の外への出血(目に見える出血)よりも、
どちらかといえば体の内部での出血(目に見えない出血)が多いことです。

【慢性出血】

血友病関節症
 ・慢性滑膜炎(まんせい-かつまく-えん)
 ・関節拘縮(かんせつ-こうしゅく)

血友病性偽腫瘍(けつゆうびょうせい-ぎしゅよう)

血友病性嚢腫(けつゆうびょうせい-のうしゅ)

またその出血の後遺症が少しずつ積み重なると、慢性的な症状をきたすものもあります。
関節内出血が繰り返されると、その関節は慢性滑膜炎【まんせい-かつまく-えん】と呼ばれる状態になり、痛みが持続する上、通常よりさらに出血しやすくなります。
さらに関節内出血が繰り返されて関節の構造が破壊されていくと、関節拘縮【かんせつ-こうしゅく】と呼ばれる関節が動かない状態になっていきます。
筋肉内の出血が十分止まらないまま、次第に大きくなっていくと血友病性偽腫瘍【けつゆうびょうせい-ぎしゅよう】や血友病性嚢腫【けつゆうびょうせい-のうしゅ】とよばれる血のかたまりができた状態になります。

最近は治療方法の進歩により、これらの慢性症状は徐々に少なくなってきていますが、適切な治療をしていかなければ、将来、これらの慢性症状を起こすことになります。

血友病の症状(2)

生後1ヶ月(新生児期)・乳幼児期から13歳までの血友病の主な内出血や外出血の種類と好発年齢表

血友病の様々な出血症状にはそれぞれ好発年齢があり、生後すぐ(新生児期)には頭蓋内出血(脳出血)、乳児期には皮下出血が比較的多い傾向にあります。
しかし、この時期は基本的に運動量が少ない(赤ん坊なので、まだほとんど動き回れない)のでそれほど出血の頻度は多くありません。
もう少し大きくなって、立って歩くようになってから、だんだん出血が増えてきます。

幼児期には転倒も多いので、頭をぶつけることが多く、頭蓋内出血や外傷出血の頻度が多くなります。
もう少し大きくなると、歩いたり走ったりすることが増え、特に足の関節に負担がかかることが多くなるため、だんだん関節内の出血が増えるようになります。

子供は全般的に鼻出血も頻度が多いので、血友病のお子さんも鼻出血が増えてきます。また、乳歯が生えてくるときに、歯肉から出血するようになります。

もっと大きくなると、関節内、筋肉内の出血が中心になってきます。

関連ページ 赤ちゃんや小さなお子さんの出血症状と安全対策

血友病の合併症(ウイルス感染・インヒビター)

血友病の合併症

  • 1.ウイルス感染症
    過去の非加熱濃縮製剤投与によるB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの感染。
    現在(1986年以降)は加熱などの処理によりこれらのウイルスの感染の危険性はありません。
  • 2.インヒビター(抗凝固因子抗体)の発生
    投与した凝固因子を中和して効果を失わせる物質(インヒビター)ができます。これができた場合は、通常の第VIII(IX)因子補充療法が効かなくなります。

病原体・異物の認識

病原体・異物の認識【図1】

私たちの体には、生まれつき体の中になかったもの(異物や病原体)が体に侵入してきた時に、これを排除して体を守る働きが備わっています(免疫)。


病原体・異物の認識【図2】

一部の血友病の患者さんには、輸注された凝固因子を異物として体が認識し、これを排除するための物質(抗体)ができてしまうことがあります。

これをインヒビターと呼び、インヒビターができた場合は、輸注した凝固因子がインヒビターによって中和され、輸注効果が減少・消失します。

このようなインヒビターが発生する頻度については全患者の10〜15%程度が一般的と考えられていました。

近年、このようなインヒビターの他に、従来は気付かれなかった、弱いインヒビターや一時的に出現した後自然に消滅するインヒビタ一が存在することが判明してきました。

これらのインヒビターを含めると、インヒビター発生率は血友病患者の約20〜30%程度と言われています。

使用する凝固因子製剤の種類によって、インヒビターの発生率に明らかな差はないと考えられています。

血友病インヒビターの止血管理

【バイパス療法】
VIII(IX)因子以外の凝固因子を活性化させることによって、血液を固まらせる治療法です。
ただし、その効果は不十分な場合もあります。

インヒビターを持つ患者さんの止血管理は、バイパス療法が主体です。

この治療法は、主に活性化VII因子を含んだ凝固因子製剤を用いて、VIII(IX)因子以外の凝固因子(X因子以降)を直接活性化させることにより、止血を促す治療法です。

バイパス療法に使用される製剤には、活性化VII因子だけを精製した製剤と、活性化VII因子とともに他の凝固因子も含有している活性化プロトロンビン複合体製剤があります。

インヒビターが発生した場合の治療は、製剤の選択や治療効果の判定が難しいので、できれば専門の医師にご相談ください。

血友病包括医療システム

  治療部門 治療スタッフ
血液学的治療 補充治療 小児科医、内科医、看護師
ナースコーディネーター
整形外科的治療 理学療法
手術
理学療法士、作業療法士
整形外科医
歯科学的治療 歯科口腔外科治療
歯科衛生
歯科医、口腔外科医
歯科衛生士
心理学的治療 カウンセリング 臨床心理士、カウンセラー
生活相談 社会経済的問題 ソーシャルワーカー
遺伝相談 凝固学的検査
遺伝子検査
カウンセリング
小児科医、内科医、産科医
カウンセラー
教育 疾患教育
学校教育
社会教育
小児科医、内科医
ナースコーディネーター
ソーシャルワーカー

血友病治療において、すでに解決されている課題は、「非インヒビター血友病患者の血中第VIII因子あるいは第IX因子活性を短期間の間100%に維持できる」ことだけです。

確かに、これによって、脳出血、消化管出血などの致死的出血や、手術へ対応することが可能となりました。また、在宅自己注射療法の導入によって出血の防止や、出血早期の止血が可能となり、若年者においては慢性関節障害の予防も進んでいます。

しかし、これらはインヒビターが発生していない患者に限られたことである上、あくまでも出血した時に止血をうながす治療、あるいは出血しにくくする治療であって、出血しなくなる治療ではありません。

したがって、血友病の患者は現在健常人と全く変わらず生活できるわけではなく、病院へ通院し続けなければなりません。

血友病は遺伝の病気であるため、いろいろな問題を抱えながら生涯を過ごすことになり、その中で様々な種類のサポートが必要となります。

病院には、いろいろな分野の専門家がたくさんいますので、主治医や看護師を通じて、問題解決の手助けをしてくれる専門家を紹介してもらいましょう。

参考資料

  • 1.血液凝固異常症全国調査 平成21年度報告書
    財団法人エイズ予防財団
  • 2.血友病教育プログラム(ホームインフュージョン教育マニュアル)
    編集:TOHC/TMC Group 1983
  • 3.血友病在宅自己注射療法の基本ガイドライン(2003年版)
    日本血栓止血学会誌 14:350-358,2003
  • 4.Biomedical Perspectives Vol.4 No.2, 1995 特集:血友病
    発行:メディカルレビュー社
  • 5.血友病における下肢の左右不均衡 - その原因と対策 -
    第27回日本臨床血液学会 1985年10月
    瀧 正志
  • 6.血友病教育プログラム2009 ホームインフュージョン マニュアル
    編集:東京医科大学 臨床検査医学講座
    福武勝幸 天野景裕
  • 7.インヒビターのない血友病患者の急性出血、処置・手術における凝固因子補充療法のガイドライン
    血栓止血学会誌 19(4):510-519,2008
  • 8.インヒビター保有先天性血友病患者に対する止血治療ガイドライン
    血栓止血学会誌 19(4):520-539,2008

参考:
血友病基礎講座(兵庫医科大学 日笠 聡)(バクスター)