後天性血友病について

後天性血友病とは

「血友病」という疾患名は多くの方がご存知だと思います。血液中に存在する血を固める因子(主に血液凝固第VIII因子)が不足または低下して、血が固まりにくくなる疾患です。血友病の患者さんは主に第VIII因子の遺伝子に先天的な異常が認められます。100万人あたり40〜60人の確率で多くは男性に発症します。

これに対して「後天性血友病」の多くは、第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)を発現する後天性血友病Aです。後天性血友病Aでは、第VIII因子の遺伝子は正常ですが、患者さんの免疫系*1が自身の第VIII因子に対する抗体を産生し、その働きを阻止してしまいます。いわば「自己免疫疾患」のひとつです。


このように第VIII因子の本来の働きを抑制してしまうため、この抗体を「インヒビター」*2といいます。「後天性血友病」のことを「後天性インヒビター」ともいうのは、このためです。先天性の血友病患者さんでも数〜20%の患者さんでインヒビターの発生が、みられますが、元来血友病でない患者さんに起こりますので「後天性」といいます。

  • *1:からだを細菌やウイルスの攻撃から守るシステム
  • *2:「インヒビター」は英語で「抑制するもの」、「妨げるもの」という意味です。

私たちのからだは、出血すると血を固まらせる仕組みが働くようになっています。

インヒビターがない場合
インヒビターがある場合

インヒビターがない場合

インヒビターがある場合

先天性血友病との違い

後天性血友病の患者さんご自身、ご両親、ご兄弟、お子さんの第VIII因子の遺伝子は正常なため、遺伝はしません。

男性、女性いずれでも発症します。

治療が奏効した場合は、しばらくの間、検査や薬剤の投与を行うことで治療は終了します。

後天性血友病の原因

後天性血友病は大変まれな疾患です。100万人あたり1人の発症率といわれています。

後天性血友病の原因は不明ですが、次のような背景を持つ方に発症することが報告されています。
一方で、以下の背景が無くても発症することがあります。

  • ● 関節リウマチなどの自己免疫性疾患
  • ● 天疱瘡などの皮膚疾患
  • ● 分娩後
  • ● 癌(手術後を含む)
  • ● 白血病
  • ● 薬剤投与後(抗生物質など)

年齢的には、高齢者の方と若年期(主に産婦)に多くみられる傾向があります。

後天性血友病の主な症状

「出血」が主な症状です。

  • 強い衝撃(打撲等)を受けた記憶がないのに広範囲にあざができている。
  • 血尿が出る。

といった症状から、

  • 手や足が筋肉や関節の出血で広範囲に赤黒く腫れている。
  • 喉の周囲の出血により呼吸がしにくい。
  • 血尿が出る。

などさまざまです。

後天性血友病の検査

出血の症状により、血液検査を行います。
一般的な血液検査(赤血球、血小板、白血球数など)に加えて、

  • 血の固まりやすさを調べる検査(APTTなど)
  • 第VIII因子の働きを抑制しているインヒビターの量*3 の測定

などの血液検査を行います。
これらの検査により、診断の確定や、重症度などがわかり、治療法を決めることができます。

*3:「ベセスダ」という単位であらわします。

Column
ベセスダとは?

1Bethesda単位/mL(以下ベセスダ)とは、正常の第VIII因子活性の働きを2分の1(半分)に抑制してしまう量のインヒビターがあることを示します。【図1】たとえば「10ベセスダ」という検査結果が出た場合は、その患者さんでは、その量のインヒビターがあることによって、正常の第VIII因子活性の働きが「2の10乗分の1」、すなわち「1024分の1」、約0.1%で、ほとんど働いていない状態になっていることを示します。【図2】ベセスダの値は1桁の場合もありますし、高い場合は1000をこえる場合もあり、患者さんや状態によって異なります。

ベセスダについて【図1】と【図2】

後天性血友病の治療

多くの場合、入院して治療を行います。
大きく次の2つの目的で治療を行います。

後天性血友病の治療1
出血症状の改善
後天性血友病の治療2
原因であるインヒビターの除去
後天性血友病の治療1
出血症状の改善

出血症状の改善は最も重要なことです。
ヒトの血液中にある凝固因子(血を固めるために必要な物質)から止血目的で作られた製剤、また遺伝子工学的に作られた同様の目的の製剤があり、静脈内に注射または点滴で投与します。
1日に何回、何日間投与するかなどは患者さんの状態をみて、医師が判断します。

バイパス製剤:別の凝固ルートを経由して血を固めます。別ルートで止血することから「バイパス製剤」と呼ばれます
後天性血友病の治療2
原因であるインヒビターの除去

ステロイド製剤、免疫抑制剤等が、症状に応じて、内服、注射または点滴で用いられます。
血漿交換療法といって、体内の血液に含まれるインヒビターを取り除くために、血液の液体部分である血漿を数時間かけて入れ替える方法がとられることもあります。

退院後は、

  • しばらくの間は定期的に来院して検査を実施すること。
  • 出血症状を含めて何か異常があったらすぐに来院すること。

が重要です。

後天性血友病の再発について

まれに再発の報告があります。

したがって、出血症状を含めて何かの異常があったらすぐに病院に行くこと、その際には、後天性血友病にかかったことを医師に伝えることが重要です。より適切な診断、治療が可能となります。

参考:
  • 後天性血友病とは(松下 正)