冊子「Friends」
【血友病体験談】自分でできる?家庭治療・自己注射〜製剤の持参
出かける時は忘れずに
ピンチ!!
家庭注射の練習が終わって、直ぐに旅行に行きました。それまではやはり病院に戻ることを考えて、あまり遠くには行ってません。やっとこれで、どこでも行けるとばかりに、出かけたのはいいのですが、実は成功率はかなり悪く、自宅では連敗していて、不安を残しての旅立ちでした。そして案の定、息子は出血し、案の定、注射に失敗して、大ピンチ。いよいよ旅先の病院を探すか、急きょ戻るしかないかと蒼ざめていると、夫が「俺がやってみる」と言い出しました。確かに夫は協力的で輸注訓練にも時間を作って、よく顔を出してくれましたし、針刺しの練習台として腕を貸してくれ、多少は自分も練習していました。他に選択肢もなく、とりあえず夫に任せてみると、なんと成功!ピンチを脱しました。相変わらず、家にいる時間が長い私が中心でやっています。自宅であれば、失敗しても馴染みの医療機関もあります。でも、外出時の気持ちの余裕は、夫もできることが分かってから、全然違います。 母(11歳)
日本の保安体制はすごい!?
製剤を持って海外旅行してきました。先生からもらった製剤使用者の証明書を持ち、製剤を手荷物と預けの二つに分けて4箱運びましたが、出入国共に何も言われませんでした。ひっかかったのは金属探知機です。自分は膝を人工関節に置換しているんですが、出入国共に鳴りました。違ったのは、その時の対応、国内では当然日本語で説明したんですが、ズボンの上から触診されたり、さらに説明を要求されたり、結構、面倒でした。言葉が通じない渡航先で、説明させられるのは気が重いと沈んでいたのですが、海外ではズボンをまくって傷を見せたら、相手は即「OK,sorry」で、せいぜい金属探知機で膝のあたりを確認したぐらい。他に何事もなく、出入国できました。日本の保安体制は確かにすばらしいのですが…。 本人(43歳)
念入りに旅行の準備
旅行・転勤などで、病院を探す時なんですが、うちはインヒビターもあったし、どうしても慎重にやらざるを得なかったので、こんなことしていました。
①まずトラベルガイド※1などで病院を調べて、良さそうな病院があれば、そこでOK。ない時はさらに全国調査報告書冊子※2をみて病院を調べました。
②病院の見当がついたら、電話して、子どもが使っている製剤があるかどうかを確認しておき、あればOK。
③なければ、また探します。
④見つけたら、主治医の先生に紹介状を書いてもらう。
⑤製剤などを保冷バッグに詰めて出掛け、一週間程度滞在するなら、病院の場所を下見して、「紹介状と薬もありますので、もしもの時はよろしく」と電話する。二週間以上滞在するなら、一応、訪問して挨拶しておく。繰り返し行く場所はカルテも作る。
何かの参考していただければ幸いです。 母(2歳)
※1 トラベルガイド
※2 血液凝固異常症全国調査報告書-毎年、財団法人エイズ予防財団が発行している。基幹血友病医療機関をはじめ凝固因子製剤の使用実績がある医療機関から患者さんに配布されている
- 海外赴任で準備すること
皆さんが会社から海外勤務を命じられたらどうしますか?
健康状態、会社への告知の有無、仕事の内容によって、最終的には個別に対応をしなければなりませんが、自己注射ができて関節の状態も比較的良い方であれば、身体的には断る理由はないかもしれません。実際に行くとなると多くの課題がありますが、まずは最大の懸案事項である製剤の入手に限定して話を進めたいと思います。
皆さんのお使いになっている製剤が入手可能な国は、欧米と豪州,韓国や台湾など、一部の国に限定されます。他にも費用さえ出せば入手できる国もありますが,原則、開発途上国での現地調達は無理であると考えてください。その国に自分の製剤があるかどうかについては主治医を通して、製薬会社のご担当の方に調べてもらうのが一番確実です。あるという場合には赴任地近くの納入先病院も確認しておくと安心です。
また、あるだけで安心してはいけません。海外では日本のような公費補助制度がなく、請求が高額になってしまう国が大半です。会社が赴任先の公的・私的な医療保険と一括契約してくれていても、注意しておかないと医療保険に年間支払保証限度額があって、凝固因子製剤の使用には制限がかかる可能性があります。もちろん個別に相手国の医療保険を契約しなければならない場合も、支払保証限度額の有無は確認のポイントです。
さて、現地での入手が困難な場合、会社毎の判断になりますが、健康保険をそのままにしてくれる会社もあります。その場合は特定疾病療養を使うことで月額支払額を一万円に圧縮し、日本国内で製剤を入手して運ぶことになります。先天性血液凝固因子障害等治療研究事業については住民票がなければ使えません。さらに会社の健康保険が使えなくなる場合で、赴任国での製剤入手も期待できない場合は、別途国民保険に加入するなどの工夫が必要です。ただ、住民票をどこにおくかなどについては、通院先のソーシャルワーカーに相談に乗ってもらってください。
製剤の輸送については、本人の赴任時に出来る限り多くの製剤(できれば半年分程度)を持ち運んでおきます。半年を過ぎると本人宛の荷物でも輸入品として課税されることがあり、半年ごとに本人が一時帰国するか、家族が運ばなくてはなりません。配送を依頼しても、高価そうな荷物は盗難にあったり、薬品と書くと運送を拒否されたりしますので、赴任国によって注意が必要です。
血友病患者さんの海外勤務も珍しくなくなりました。ちょっとハードルは高いのですが、ご活躍ができるよう、主治医、通院先のスタッフと十分にご相談下さい。
- Friends「自分たちでしよう」編(小島賢一)