冊子「Friends」
【血友病体験談】自分でできる?家庭治療・自己注射〜開始時期3
いつからしてる、家庭治療・自己注射【3】
慣れるまでは不安
子どもは今18です。家庭注射は7歳ころから。病院に行く時間も省け、いつでも早くに処置が出来るようになり良かったです。慣れるまでは、朝、登校前にうつのは時間に追われる中での事なので、失敗しないようにと焦り大変でした。注射が嫌でなかなか打たせてくれない時、説得するのに苦労しました。慣れるまでは不安でしたが、今思えばもっと早くから家庭注射出来るようになっていたら良かったと思います。初めのうちは緊張して失敗も多々ありましたが、だんだんコツを覚えると上手くなっていきますよ。定期投与になってからは出血することもそれまでに比べ少なくなり、皆と同じ様にいろいろな事が出来るので、早いうちからの家庭注射、自己注射をお勧めします。 母(18歳のお子さん)
一番、病んだ時期
3年生か4年生の時に、足首の出血が続いて、サッカー部も辞め、体育も見学していた時に、ストレスが溜まっていたと思うのですが、同じクラスの女の子に鉛筆を投げて顔に当って、親子で謝りに行きました。足首の調子は良くならないし、子供はいらいらするし、それを見て私もいらいらして、一番悩んだ時期だったかもしれませんね。幸いにも、足首も良くなって、身体が動かせるようになってからは、息子も人に対していつも通りに接することが出来ました。 母(14歳のお子さん)
バスケがしたくて
注射は嫌だが、バスケッボールがどうしてもしたくて小6の時に覚えた。当時、運動は大好きだったが、4日も出血しなかったら万々歳といったありさま。つき指なんか年中だし、足が痛くて体育を休むのも厭だったが、その好きな体育を「どうして休むんだ」と友だちにきかれるのは、もっと辛かった。自己注射ができるようになって8割ぐらいは成功していた。2割は親。それで中学でバスケットボール部に入った。先輩も顧問もいい人で、特別扱いはしてくれないが、理解はあるって感じ。嬉しくて、サポータしながら、予防投与しながら夢中でやった。今、結婚して子どももいる。足首なんか時々、動き出しが痛むことがあるけれど、なんでもチャレンジさせてもらったことが、今の自分に活きている。 本人(24歳)
親の苦労、子知らず
去年の夏に自己注射の練習を考えたんですが、本人があまり乗り気でないようなので、無理させてもいけないと思い、止めました。今春も日程が合わなくて練習はできないまま。それなので自分では注射ができない状態で、学校の林間学校に行く羽目になってしまったのです。林間学校は二泊三日で、血友病のことを友だちには言ってません。もともと元気はある方で、その面で問題になることはあっても誰も病気だなんて想像もできないと思います。先生と相談して生徒たちが一番、暇な時間を見計らって、二日目にそっと注射をうちに行くことに決めました。学校はすごく配慮してくれて、事務室の奥の部屋に親だけそっと先に入れて、周囲に気付かれないように子どもを連れてきてくれました。注射は無事に済み、先生は子どもに「お前は腹痛でトイレに行ってるって言ってあるからな」とおっしゃってくださいました。ところが部屋に戻って、友だちに言い訳すると「えっ、嘘う?だってトイレには誰もいなかったじゃん」と言われたようです。その時は先生に薬貰いになどとごまかしたようですが、もう親が出掛けてやるのも限界かもしれません。本人は親のこうした苦労にはいたって無関心で、のんきなもの。自己注射するようになって、タイミングをみるような苦労をすれば、少しは分かるかしら。 母(11歳のお子さん)
たくさんの不安
子どもが1〜2歳だった昔は近所の医院に行ってうってもらっていたが、製剤を点滴でされ、時間がかかって仕方がなかったので、今、かかっている専門病院に相談した。幼稚園に入る春に家庭注射の練習をした。しかし、いろんなことが心配だった。母親が不安で緊張するとうまくできないし、子どもが小さいと血管にうまく刺さらないのではないか?そんな嫌いな注射を母親が何度もすると母親不信になってしまうのではないか?病院で相談した。実際にはそんなことはなかったが、出血後に過保護にするので、以後、何かと甘え過ぎるようになったり、他の子どもと遊んでいるとすぐに注射の真似をするので、その親からどういう教育をしているのだという電話があったり、そのたびに病院で相談した。あの頃は主治医や看護師さんやカウンセラーにたくさん相談していた。小4にもなると、心配ばかりする母親には反抗的で、父親にべったりになった。サーフィンをする父親と一緒に、本人はボディボードをやって夏休みの土日ずっと一緒だった時期もあった。そういえば、その後の二学期が始まってすぐに、学校内で左足首を出血して、たまたま担任の先生が休みで保健室にも人が居らず、困り果てた本人が、職員室前の電話から半べそで電話してきたこともあった。その頃は学年の教師と保健の先生だけが知っていて、友人は誰も知らなかった。翌年の夏に自己注射を訓練したい、自分は一回で入る自信があるからやらせてほしいと言いだしたのは、そうした経験の影響もあるかもしれない。 母(24歳のお子さん)
お父さんと一緒
家庭注射、うちは主人にも覚えてもらいました。とても助かっています。もし一人しかできないのだったら、外出や旅行に私がいつも子どもを同伴するか、そうでなくても気を遣うことになったと思います。専業主婦でもそうなのですから、お仕事を持つとさらに大変かもしれません。それに家庭治療につきものの失敗やスランプも二人いれば、何とかなるものです。それぞれ得意なうつ場所が違っていると、もっといいですよね。別に夫でなくても、近所に住む姉や妹に覚えてもらって助けてもらった人もいるようですよ。いずれにしても一人より二人ですね。 母(13歳のお子さん)
- 導入のコツあれこれ
今は自己注射を当たり前のようにしている方でも、自己注射に向けて親御さんが動機づけに苦労していた例は結構あります。治療とはいえ、痛い注射をするように、どのように動機づけていったのでしょうか。本冊子を編集するにあたり、多くの患者さんのお話をお聴きした中で、いくつかの工夫がありました。
突然は無理
注射に限らず、突然、何か言われても心の準備がないと取りかかれないものです。分かっても、分からなくても、小さいうちから大きくなったら自分でするものだと言い聞かせておきましょう。後述するような時期の目安を伝えた方が、心の準備はしやすいものです。また観察学習も有効で、キャンプなどで、お兄さんがやっている姿を見ると自然に自分もあの年になったらやるものだという覚悟ができてきます。但し、いずれもあまりプレッシャーにならない程度にお願いしますね。
一人は無理
普段の遊び友だちや同級生に同じ血友病仲間がいることは99%あり得ません。そんな中で自分だけが注射の練習をしなくてはならないのですから、乗り気にならないのが普通です。その点で仲間を作っておくことは大切で、この時までに患者会行事などに参加して同年代の仲間と知り合いになっておきましょう。珍しい病気だけれど決して一人ではないと知っていると孤独感は大いに緩和されます。輸注訓練もキャンプなどで知り合った同世代の友人と一緒にできれば、不安は大幅に解消されるでしょう。
全部は無理
輸注量を判断して、衛生管理をしつつ、溶解操作をし、注射をし、片付ける。この全てを一度に学習・習得しようとしても、とても大変。親御さんが一緒になって、できるところから予習をしておきましょう。まずテーブルを拭き、卓上を片付けてセットを準備させます。次に溶解操作を教えて一人でも溶かせるように慣れてもらいます。そして、片付け。プラスチックゴミ、医療廃棄物、紙のゴミなどに分けて、捨てることを憶えます。特に片付けは、自分の血液を他者に触れさせない、という感染管理の基本的かつ重要な内容で、こうした手続きを経て体験的に学習していくとよいでしょう。それらと並行して、予測される出血の状況と必要輸注量の計算ができるようにしておくことも忘れてはいけません。簡単ですが、掛け算や割り算は必須ですよ。自己注射のテキストは、病院の主治医の先生に言えばもらえます。
ぼんやりは無理
できるようになった人は、口を揃えて楽になったと言います。しかし、やっていない人にはピンと来ません。特に小学生は親がいつもそばにいて駆けつけて注射してくれるものですから、そのままで良いと考えることも多いようです。自己注射ができたら生活や気持ちがどう変わるかを想像させましょう。親の帰宅を待たずにうてる、ちょっと怪しいと思えばうてる、学校に製剤が置いてあれば学校でもうてるといった具合。しかし、最も効果的なのは学校行事への単独参加です。修学旅行、林間・臨海学校、移動教室、宿泊遠足、社会科見学などの校外行事に他の子と同様、一人で参加できるようになります。親が付いてくるのが恥ずかしくなる思春期の男の子にとっては大きな動機になります。
焦ると無理
編者の知る限り、新婚旅行に注射器を持った母親が一緒に付いて行った例はありません。必要のある人は必ず覚えます。最初に決めた時期が失敗しても焦らずに、再チャレンジしてください。
- 座談会:母親の集まりの会話から(2)
遠藤(11):うちの子ども、輸注練習、楽しかったみたいよ。帰ってから「もう一度、練習しに行こうかな」なんて言ってる。
近藤(12):息子も一緒で、「注射の練習抜きで、また行きたい」って、勝手なこと言ってた。
内籐(10):いつもは一時間って決められるゲーム機も、親の目がないから、やり放題だし、マンガも夜遅くまで読んでたみたいだし。
近藤:看護師さんに注意されなかったのかしら。
内籐:されても隠れて読んでいたみたいよ、揃って。
遠藤:確かに3つのベッドの2つをくっつけて、そこに三人が集まって、捨て犬みたいにコロコロじゃれあってたもんね。
内籐:まさに、そんな感じ。
遠藤:でも最初に注射の練習に失敗した時はどうなるかと思ったけ、何とかなってよかった。うちの子は口ばっかりでいざとなると、てんで度胸がないんだから。
近藤:息子は逆で最初はうまくやれてたんだけど、調子に乗ってやってるうちに、すぐにスランプ。あの時は半泣きだったわ。
内藤:うちの子は勉強の方、体重と出血部位から単位数を計算するじゃない。簡単な掛け算と割り算間違えるから、見てるこっちの顔が赤くなった。
遠藤:時々、メールしているみたいじゃない?
内藤:キャンプでまた一緒に遊ぶって言ってた。
近藤:友だちができてよかったわね。
- 練習を手伝う側として
何人かで輸注練習するやり方はいいですね。隣を見て自分も頑張らなくちゃって思う子もいるし、何より入院と針を刺す不安が、友だちと一緒にいることで軽くなる気がします。ただ子どもによっては、針を刺す実習の時に怖くて泣きだす、あるいは友だちがみている緊張感で失敗して落ち込む子もいますので、個別に練習させる方がよい場合もあります。様子をみて決めるようにしています。また本人がやっている時は母親には外に出てもらっています。親も心配でしょうし、子どものおぼつかない手つきを見ていると口も手も出したくなるでしょう。子どもも、つい母親の方を見ては同意や助けを求めてしまうでしょう。親子の絆は大切ですが、自己注射は子どもの自立への一歩でもあります。ここはあえて分離してやっています。後で様子を親御さんに報告すると、結構、成長した我が子の姿に気づくことも多いようで、喜んでもらえます。しかし自立ということは、一人でやれるということではありません。入院という集団生活の中で、他の人に配慮してルールを守ることも自立の大切な要素です。看護師さんの歓心を買おうと、はしゃいで羽目を外す子どもたちもいますので、ご家庭でも是非、ご協力のほどよろしくお願いいたします。余談になりますが、遠方から練習に来る親子は必死さが違います。専門病院が近くにあって、いつでも指導を受けられることは、患者さんにとって、それだけ幸せなことなんだと感じさせられます。全国各地の患者さんが幸せになれる医療体制ができるとよいですね。
病棟看護師
- Friends「自分たちでしよう」編(小島賢一)