患者さんとご家族のための血友病情報誌「ファイン」 Vol.10

血友病小児は、きちんと凝固因子を補充することにより
健康児と変わらない生活ができます

 今回の「ハロー!ドクター」は、広島大学病院を訪問し、小児科の小林正夫先生にお話を伺いました。
小林先生は子どもには好きなことをさせてあげたい、という思いのもと、出血ゼロを目指したオーダーメイド療法や小さい頃からの自立教育を積極的に行っています。
小林 正夫(こばやし まさお)先生

広島大学病院 小児科 診療科長
小林 正夫(こばやし まさお)先生

■PROFILE
1978年広島大学医学部卒業、小児科に入局
1998年広島大学教育学部教授(幼児保健学)
2003年より現職
広島県マスターズ陸上800m(60-64歳部門)で優勝経験もある小林先生。広島大学医学部の陸上部顧問もされていて、学生の部員と一緒に走ることもあるそうです。家の近くに歩道が広く走りやすいコースができたことをきっかけに、4年前からジョギングを続けています。

2006年より包括外来がスタート

 広島大学病院では、小児科と血液内科の2つの診療科で約100名の血友病患者さんを診療しています。そのうち小児科に通う患者さんは約40名で、小林先生をはじめとする3名の先生が血友病の診療を担当しています。

 広島大学病院小児科の特徴として、他科と連携して血友病患者さんを診療する「包括外来」があります。包括外来では、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科の医師や看護師、理学療法士などの医療スタッフが連携して診療を行っています。例えば、整形外科では出血の有無にかかわらず定期的に関節を詳しく診察し、出血があったときには的確な治療が行えるように、患者さんの情報をチームで共有しています。包括外来が始まった2006年の患者さんは約20名でしたが、夏休みを利用して来院される他県の患者さんが増え、10年経った今では約40名になりました。普段は家の近くの病院に通っていて年に1回、包括外来を受診する患者さんも20名ほどいらっしゃいます。

出血ゼロを目指し、健康児と変わらない生活を

 「小さい頃から診てきた患者さんを、関節障害などの心配がない状態で小児科から血液内科へ送り出せたときが一番嬉しいです。」とおだやかに微笑む小林先生。血友病患児はきちんと凝固因子を補充すれば健康児と変わらない生活ができるというお考えのもと、遺伝子組換え製剤が発売された頃から定期補充療法の導入を積極的に進めてきました。今では広島大学病院に通う全ての重症と中等症の患者さんは定期補充療法で治療を続けています。さらに、出血ゼロを目指して個々のライフスタイルに合わせたオーダーメイド療法を積極的に行っているそうです。

 また、小林先生は患者さんやご家族の負担をなるべく少なくして、安心して治療を続けてもらうように心がけているそうです。血友病と診断されて不安になっている患者さんやご家族には、きちんと凝固因子を補充すれば健康児と変わらない生活ができること、練習すれば自分で注射ができるようになることなど、不安が解消されるまで何度もお話されるそうです。また、ご家庭での注射を導入する際に、なかなか針を刺すことができないご家族には一時的にポートを使ったり、訪問看護でサポートしたり、なるべくご家庭での負担を減らせるようにしているそうです。患者さんやご家族には「しっかり補充していれば何をしてもいいよ。万が一出血したらすぐに来なさい。」とお話している小林先生。患者さんやご家族にとって一番の心の支えとなるのは、このようにいつでも広い心で受け止めてくださる小林先生なのでしょう。実際に、好きな趣味やスポーツを楽しんでいる患者さんもたくさんいるそうです。

小さい頃から自立教育を重点的に

 一般的に、血友病患者さんの定期的な注射がおろそかになってしまう時期は、思春期から20歳代といわれていますが、広島大学病院の患者さんはほとんど問題なく注射を続けられているそうです。きちんと注射が続けられる秘訣をお伺いしたところ「小さい頃からの自立教育が大切です。」と明瞭なお答えをいただきました。小林先生は「注射は好きなことやスポーツをやるためには必要なことだよ。」と患者さんが小さい頃から繰り返しお話しているそうです。それに加えて、夏休みや冬休みの教育外来で定期的なテストも行っています。そのテストはお母さん用から始まり、患者さんの年齢に応じて段階的に用意されています。テストは主に看護師のサポートのもとに行われ、血友病の基礎知識はもちろん、出血したらどうなるのか、どうして予防が大切なのか、などの治療の必要性を自然に受け入れられることを目的としています。広島大学病院では、学校の宿泊行事が増える小学校高学年を目安に自己注射の指導を始めますが、ほとんどの患者さんは特に抵抗なく導入できて、中学生になる頃には自分から積極的に注射しているそうです。

 また、広島大学病院には臨床心理士やチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)によるサポート体制も整っています。お子さんが注射を嫌がる場合は、CLSがお子さんに治療の必要性をわかりやすく伝えて、注射を受け入れられるように指導する場合もあるそうです。

:チャイルド・ライフ・スペシャリスト(Child Life Specialist:CLS)
医療環境にある子どもやご家族に、心理社会的支援を提供する専門職。子どもが受け身になりがちな医療の中でも、子ども自身が主体的な存在であり続け、医療体験を上手く乗り越えていけるように、医療体験への心の準備をサポートしています。

患者さんやご家族同士の交流も大切

 血友病患者さんの課題の一つに、小児科から(血液)内科へ転科することが難しいということがあげられます。しかしながら、広島大学病院の小児科に通院している患者さんのほとんどは、18~20歳代前半の大学進学や就職などをきっかけに血液内科へ問題なく転科しているそうです。その秘訣を伺うと「小さい頃からサマーキャンプを通じて、患者さんと血液内科スタッフとの距離が縮まっているからではないでしょうか。」とお話いただきました。毎年8月に行われる患者会のサマーキャンプでは、小林先生をはじめとする小児科スタッフと血液内科スタッフが参加して、懇親会やペタンク**というスポーツを通じて約40名の患者さんと交流を深めているそうです。参加者は広島大学病院の患者さんが中心ですが、近隣の香川県や徳島県、岡山県、山口県からの参加者も増えつつあります。

 小林先生はこのような患者会に積極的に参加してきました。その経験から、患者会を医療スタッフと患者さんの交流だけでなく、患者さん同士の交流の点でも大切に考えるようになったといいます。「医療スタッフよりも患者さんからの情報が説得力を持つ場合もありますしね。」とお話いただきました。ご家庭での注射を導入する際も、患者さんやご家族からのアドバイスで抵抗なく導入できるケースもあるそうです。交流が少ない患者さんやご家族には「患者会などを通じて患者さんやご家族同士で交流してみませんか?お子さんにとっても楽しい思い出になると思いますし、ご家族にとっては新たな発見があるかもしれません。」とのアドバイスをいただきました。

 最後に、小林先生に患者さんとそのご家族へのメッセージを伺うと、「血友病はきちんと定期的に凝固因子の補充をすれば好きなことができる、ということを小さい頃から自覚させてあげることが大切です。」とお話いただきました。子どもには好きなことをさせてあげたい、という信念のもと、これからも小林先生は色々な患者さんとご家族を広い心と笑顔で支えてくれることでしょう。

**:ペタンク
フランス発祥の球技。地面に描いたサークルから金属の球(ブール)を交代で投げ、相手チームより木製の目標球(ビュット)に近づけることで得点を競う。

広
島大学病院小児科スタッフのみなさま
小林先生を中心に、血友病患者さんを笑顔で支える広島大学病院小児科スタッフのみなさま。
チームワークを大切に、他科と連携する包括医療や患者さんの指導にも積極的に参加しています。
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30以上の診療科ならびに病床数700床以上を有する医療機関であり、広島県における高度先進医療や地域医療の中心的な役割を担っています。2013年にオープンした地上5階建ての診療棟の屋上には、緑豊かな庭園が広がっており患者さんやそのご家族の憩いの場となっています。

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