患者さんとご家族のための血友病情報誌「ファイン」 Vol.10

「ファイン」 Vol.10
Contents

【特集】出血ゼロの生活を目指して
ハロー!ドクター
ファインな仲間たち [体験談]

出血ゼロの生活を目指して

鈴木 隆史 先生

 日本で定期補充療法が本格的に導入されてから10年以上が経ち、関節内出血が大幅に減少し活動的な生活を送る患者さんも多くみられるようになりました。定期補充療法は、関節内出血による痛みや腫れを防ぐだけでなく、長期的な関節保護の点からも効果的な治療法といわれています。関節内に一度でも出血が起きると、さらに出血を繰り返しやすい状態となり、最終的に重度の関節障害に至る場合も少なくないからです。関節内出血から関節障害に至るメカニズムが解明されるにつれて、現在では出血ゼロを目標とする血友病治療が推奨されています。

監修:東京医科大学 臨床検査医学分野 准教授 鈴木 隆史 先生

TOPICS

1回の出血が与える影響を知っていますか?

 血友病患者さんには筋肉内出血や皮下出血、血尿などさまざまな出血症状がみられますが、中でも特徴的な症状として膝や肘、足首などの関節内出血があります。世界で行われた臨床試験や動物実験によると、同じ関節に2~3回以上の出血が起きると関節障害が進行する可能性が高くなることが報告されました1)。さらに最近では、痛みや腫れがないため患者さん自身も気付かない無症状の関節内出血も関節障害に関連があると考えられています。ひとたび関節内出血が起こると、痛みやそのための運動制限により筋力低下や支持組織の機能も低下してしまい、さらに出血しやすい状態となってしまいます(図1)。このような背景から、最近の血友病治療においては出血ゼロを目標とした治療が大切と考えられています。

1回の出血から関節障害までのメカニズム

出血を起こす要因について考えてみましょう

 血友病患者さんの出血には、止血管理のための凝固因子製剤(以下、製剤)やライフスタイルなど、複数の要因が関係している可能性があります(図2)。製剤の要因として考えられるのは、その量やタイミングが患者さんにあっていない場合です。運動によって関節内出血のリスクを高めてしまうことがあります。特に激しい(関節に強い衝撃が加わる)運動をする場合は、凝固因子活性が50%あっても「製剤を補充していない安静時」と同じくらいの出血リスクがあるとの報告もあります2)。社会人の患者さんの場合は、激しい運動をしていなくても仕事内容や生活環境が変わったことで関節への負担が増えて出血する場合もあります。その他の出血の要因として、決められた時間に注射を行えない場合や関節障害が進行して、常に出血しやすい状態であることなどが考えられます。

出血の要因

出血予防には定期補充療法が推奨されています

 出血を防ぐ投与方法として「定期補充療法」があります。定期補充療法とは、製剤を定期的に注射することで、出血を起こさないようなレベルに凝固因子活性を保たせる方法です。以前の血友病治療は出血時に注射を行う「出血時補充療法」が主流でしたが、現在では日本のみならず世界的にも定期補充療法が標準治療となりつつあります。

出血を防ぐ「定期補充療法」 定期補充療法は出血回数を減少させることで関節障害を防ぐとともに、すでに起こってしまった関節障害の進行を遅らせることが可能と考えられています。また、頭蓋内出血などの重篤な出血の減少も期待されています。さらに、出血回数が少なくなることで不安や痛みが減り、充実した学校生活や社会生活を送ることができると考えられています。定期補充療法を始めてから安心して外出や旅行ができるようになったという声を、多くの患者さんから聞かれるようになりました。

患者さん一人一人にあわせた治療が大切です

 最近の血友病患者さんに対する治療は、年齢、重症度や体重を考慮するだけでなく、患者さん一人一人にあわせて投与方法を決めることが重要といわれています(個別化治療)。患者さんには個人差があり、それぞれ出血を予防できる注射量や凝固因子活性が体内から消失する時間が異なるためです。血友病A患者さんにおける第Ⅷ因子製剤の血中半減期(第Ⅷ因子の血中濃度(活性)が半分になる時間)は約12時間といわれていますが、ある研究では患者さんによって8時間から23時間までの幅があることが報告されました3)図3)。このような個人差があるため、定期補充療法によってきちんと注射していても出血がある場合は、その患者さんにとっての最適な投与量と投与間隔を再度検討する必要があるかもしれません。もちろん、ライフスタイルにあわせた投与方法を考慮することも大切です。例えば、部活に忙しい学生の患者さんの場合、激しい運動をする前に注射を行うなどタイミングの調整によって出血リスクを低くする方法もあります(図4)。このように患者さん一人一人に適した治療を考えることは、出血を防ぐだけでなく今後のより良い人生を送るためにとても大切です。

血友病A患者さんにおける第Ⅷ因子製剤の血中半減期・ライフスタイルにあった投与方法

 最近では従来の製剤よりも半減期が長い「半減期延長型製剤」も発売されています。この製剤の登場によって、出血ゼロを目指す治療の選択肢が拡がりつつあります。

まとめ

 たった1回の出血がもとで血友病性関節症へ進展してしまうこともあるため、関節障害を防ぐためにも、自分のライフスタイルに適した治療によって出血ゼロを目指しましょう。

 定期補充療法を行っていない患者さんの中には「あまり出血していないから大丈夫」、「定期的に注射するのはちょっと面倒…」と思う方もいるかもしれません。充実した生活を送るためにも出血ゼロを目指すことはとても重要です。定期補充療法は、出血リスクを最大限に予防する治療法として世界的に広く推奨されています。定期補充療法を行っていない患者さんは、主治医の先生に相談してみてください。すでに定期補充療法を行っている患者さんでも出血や関節が気になるようでしたら、今の自分に最適な製剤の種類、投与量とそのタイミングについて、あらためて主治医の先生と話し合ってみるのもいいでしょう。今回のお話によって、患者さん自身がそれぞれの血友病治療を見つめなおす良いきっかけになりますように。

出血ゼロを目指しましょう!

※引用文献
1)Gringeri A. et al. Haemophilia 2014; 20(4): 459-463
2)Broderick CR. et al. JAMA 2012; 308: 1452-1459
3)Björkman S. Haemophilia 2003; 9(Suppl 1): 101-110

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