患者さんとご家族のための血友病情報誌「ファイン」 Vol.9

「ファイン」 Vol.9
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【特集】より患者さん一人ひとりに適した治療のために〜半減期延長製剤の登場〜
ハロー!ドクター
ファインな仲間たち [体験談]

より患者さん一人ひとりに適した治療のために
〜半減期延長製剤の登場〜

藤井 輝久 先生

 血友病治療の目的は早期の止血や出血予防、すなわち止血管理であり、その主なものが定期補充療法です。患者さん個々の薬物動態を評価し、定期補充療法をより患者さん一人ひとりに合わせて輸注する治療(テーラーメイド治療)が現実的なものになっています。加えて、最近では作用時間が通常より長くなった凝固因子製剤(半減期延長製剤)の開発が行われており、治療の選択肢が増えたことで、さらに進化したテーラーメイド治療が実現されつつあります。
 そこで今回は、これまでの(従来)製剤と新しい(半減期延長)製剤との比較、そして止血のための治療法選択のポイントについて解説します。

監修:広島大学病院 輸血部 部長 藤井 輝久 先生

TOPICS

薬物動態とテーラーメイド治療 〜前号のおさらい〜

 薬剤の有効性には個人差がみられ、その原因の一つは薬物動態にあることを前号で取り上げました。その内容について少しおさらいしてみたいと思います。

 薬物動態とは、薬剤の輸注から、体内に分布し代謝を受け体外に排泄されるまでの薬の一連の動きのことであり、その動きには個人差があることが知られています。血液凝固因子製剤を輸注すると、血中の濃度(血中薬物濃度)は速やかに上昇し、やがて血中濃度が最大になる「ピーク値」に達します。その後、血中濃度は代謝により徐々に低下していきますが、血中濃度がピーク値の半分に減るまでの時間を、半減期と呼びます。

血友病Aの患者さんの第Ⅷ因子製剤の半減期の年齢差と個人差

 半減期は個人によって差があることが知られており、第VIII因子製剤の半減期について、血友病Aの1〜6歳までの患者さんと10〜65歳までの患者さんでは約1時間の差がみられる、といった年齢による違いに加え、個人によっては8〜23時間もの幅があることが報告されています(表1)1)、2)。また血友病Bにおいても、時間は異なりますが、第IX因子製剤の半減期について個人差があることが報告されています。

 こうしたことから、定期補充療法において、従来から考慮していた体重やライフスタイルといった評価項目に患者さん個々の薬物動態の評価も加えることで、より患者さん一人ひとりに適した治療法(テーラーメイド治療)が設計できる、というお話をしました。

 今回は、「どの製剤を選ぶか」という観点からテーラーメイド治療が実現しつつあるというお話をしたいと思います。

新しい製剤の登場

 一般的に従来の凝固因子製剤による定期補充療法では、血友病A患者さんでは週に2〜3回、血友病B患者さんでは週に2回の補充で止血効果が得られます。1週間に複数回の補充が必要なのは、凝固因子製剤の半減期が短いためです。もし従来製剤より半減期が長い製剤が使用できるようになれば、患者さんの負担が減ると考えられます。

従来製剤と半減期延長製剤の薬物動態のイメージ:半減期

 こうした背景から、最近は、従来製剤よりも長時間作用する「半減期延長製剤」の開発が進められています(図1)。半減期延長製剤では、定期補充療法において、従来製剤より輸注回数を少なくできる可能性があります。

製剤の特徴を理解することが大切 ただし、注意すべき点は、この新しいタイプの製剤は、どんな患者さんにも適しているというわけではないということです。ご自分に適した製剤は、後で詳しく述べます「表2 治療法の選択で考慮される指標」を考慮した上で、決めていくべきです。そして半減期延長製剤の登場により、製剤の選択肢が増えました。治療の選択肢が増えたことは望ましいことである一方で、それぞれの製剤の特徴をきちんと理解することも大切です。

従来製剤と半減期延長製剤の違い

 では、従来製剤と半減期延長製剤の違いについて、説明します。

 従来製剤の最大の特徴は、これまでに多くの患者さんに輸注した経験から、有効性と安全性に関するデータがある、ということが挙げられます。つまり、どのくらいの頻度でどのくらいの量を補充すれば十分な止血効果が得られるかといったことや、どんな副作用が現れる可能性があるか等、実際に補充するに当たり必要な情報と経験が豊富にあるということです。

 一方で、半減期があまり長くないため、定期補充療法では週に2〜3回の補充が必要となります。

 そして、半減期延長製剤が新たに血友病治療の選択肢の一つとして加わりました。半減期延長製剤は名前の通り半減期が長いため、止血効果を維持する時間が従来製剤より長く、その結果、補充回数を少なくできる可能性があります(図2)。

従来製剤と半減期延長製剤の薬物動態のイメージ:ピーク値と止血効果維持時間

 しかし、あくまで半減期が延長するだけですので、ピーク値はほとんど変わりません(図2)。

 活動性が高い患者さんなどに半減期延長製剤を使い、補充回数を減らすと出血のリスクが高くなる可能性もあります。また、新規の製剤であるため、患者さんへの輸注経験がまだ少なく、十分なデータが集まっていません。半減期延長製剤導入後は、従来製剤を補充した時と比べ止血効果や安全性に変化がないか観察が必要です。さらに、従来製剤ではみられなかった副作用が発現する可能性があります。また、一度補充を忘れると従来製剤より出血リスクが高くなる可能性があるため、より確実な補充を必要とします。

 このように、製剤の種類によりそれぞれ特徴がありますが、どちらが優れているということは、今のところ結論づけられていません。大切なことは、止血という目標を達成するために、「自分に適した治療法(製剤・輸注法による止血管理)」をすることです。

大切なのは、自分に適した治療法の選択

 自分に適した治療法とは、前号でも取り上げたように、個々の患者さんの特性(指標)を考慮して決めています

治療法の選択で考慮される指標

 基本的な指標としては、体重や薬物動態が挙げられます。これに加え、日々の活動性の高さ(日常的にスポーツを行う、身体を動かすことが多い職業である、等)、きちんと毎回輸注・記録ができているかといった治療への向き合い方(治療アドヒアランス)、そして出血のしやすさ(体質)なども考慮されるべき指標です(表2)。これらを考慮したうえで、適した輸注量、補充スケジュールが決定されます。

 こうした患者さん個々の特性を評価することに加えて、新規製剤の登場により、さらに患者さん毎に適した治療を行える環境が整ってきたといえるでしょう。

まとめ

主治医の先生と相談しましょう 血友病治療の進歩により、新しい製剤が開発され、また薬物動態をより簡単に評価できるようになりました。その意味で、テーラーメイド治療が実現化しつつあります。しかし、新しい製剤が使用できるようになっても、止血管理が血友病治療の基本であることに変わりはありません。

 自分の生活スタイルや目指す治療について主治医の先生と十分に相談し、ご自身に最も適した方法で止血管理を続けていきましょう。

新規製剤の情報については、
主治医の先生にご相談ください。

※参考資料
1)Collins PW, et al. J Thromb Haemost 2010;8(2):269-275
2)Björkman S, Haemophilia 2003;9(Suppl 1):101-110

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