患者さんとご家族のための血友病情報誌「ファイン」 Vol.8

「ファイン」 Vol.8
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【特集】より患者さん一人ひとりに適した治療のために〜薬物動態が導くテーラーメイド治療〜
ハロー!ドクター
ファインな仲間たち [体験談]

より患者さん一人ひとりに適した治療のために
〜薬物動態が導くテーラーメイド治療〜

患者さんとご家族のための情報誌「ファイン」

 血液凝固因子製剤の定期補充療法が広く浸透してきたことにより、血友病患者さんの活動範囲は大きく広がり、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)は大きく向上してきたと考えられます。そのような中、血友病領域においては、さらに一歩進んだ治療法として、より一人ひとりの患者さんに適した治療法、「テーラーメイド治療」が現実のものとなってきました。そこで今回の特集では、「薬物動態(投与された薬物の体内での動き)」というものが深く関係する「テーラーメイド治療」について解説します。

監修:宗像水光会総合病院 小児科 酒井 道生 先生

TOPICS

定期補充療法の効果と残された課題

 血液凝固因子製剤の定期補充療法が日本に本格的に導入されて10年以上が経ち、今や血友病の標準治療といえるようになってきました。

 定期補充療法とは、定期的な注射により凝固因子レベルを自然出血を起こさない程度に保つことで出血を防止する輸注方法です(※1)。この治療法により、関節障害の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることができます。また、出血回数が少なくなることで出血に対する不安が減り、学校生活や社会生活がさらに充実すると考えられます。

 しかし、多くの方がその効果を実感される一方で、定期補充療法を実施しているのに効果が感じられない、または他の患者さんに比べて効果が低い気がする、と感じたことがある方もいるかもしれません。

 このように、同じ薬を使用したとしても効果が患者さんによって違う=有効性に個人差があることは、どんな病気の治療においても認められ、有効性の個人差をいかに小さくするかが課題となっています。血友病治療においても同様で、患者さんごとに適した、より質の高い治療が求められ、またそれが実現できる時代になりつつあるといえます。

より個々の患者さんに適した治療=「テーラーメイド治療」

 「テーラーメイド治療」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。テーラーメイド治療とは、患者さんの年齢、体重、性別、ライフスタイルなど個々の状況を考慮したうえで治療方針を設計する治療法です。「パーソナライズド治療」、「個別化治療」などと呼ばれることもありますが、基本的にすべて同じ意味です。では、血友病治療(定期補充療法)において、より一人ひとりの患者さんに適した(=テーラーメイドの)投与法に調整するためには、どのような情報が必要になるのでしょうか。

 血友病の薬物治療においては、止血効果が得られるのに必要な濃度(量)の凝固因子製剤が体内に保たれている必要があります(図1)。つまり、テーラーメイド治療を考えるには、凝固因子製剤が体内でどのくらいの期間、十分な濃度を保っていられるかの情報を把握することが重要になります。そこで、薬が投与されてからの体内での変化について解説することにします。

大きな個人差がある「薬物動態」

 通常、薬を体内に投与すると、吸収されて全身に分布し、その後、代謝され、体外に排泄されます。この吸収・分布・代謝・排泄という体内における薬の一連の動きを薬物動態といいます。薬物動態は、薬の有効性と深くかかわっています。

 凝固因子製剤は血管内に直接投与されるので、血中の濃度(血中薬物濃度)は速やかに上昇します。血中濃度が最大に達した時の値を、ピーク値(または最高血中濃度)と呼びます。血中濃度がピーク値に達すると、今度は代謝により徐々に低下していきます。血中濃度がピーク値の半分に減るまでに要する時間を、半減期(t1/2:ティーハーフ)と呼びます。定期的に薬剤を投与している場合、次回の薬剤投与直前の一番低い血中濃度をトラフ値と呼びます(図2)。

 一般的に、第Ⅷ因子製剤の半減期は約12時間、第Ⅸ因子製剤の半減期は約24時間といわれています。しかしながら、これらの薬物動態にかかわる数値は、個人により大きな差があることが知られていて、第Ⅷ因子製剤の半減期には8〜23時間もの幅があることが文献でも報告されています(※2〜4)図3)。

 このように薬物動態には大きな個人差があり、それが有効性の個人差を生じる一因であると考えられているのです。

体重と薬物動態から設計するテーラーメイド治療

 薬物動態は、体重や年齢が同じであっても患者さんごとに異なります。患者さん個人の薬物動態を知るためには、実際に採血し、血中濃度を何回か測定する必要があります。以前は、薬物動態をきちんと評価するためには、入院し、8回程度採血しなければならないなど、時間や手間がかかっていました。しかし、技術の進歩により、最近は外来通院での2〜3回の測定で薬物動態が把握できるようになりつつあります。

 現在の一般的な定期補充療法では、投与量や投与間隔は患者さんの体重を基に決定され、トラフ値が止血に必要な値より低くなる前に次の投与を行うように設計されていることが多いと思います。さらにはライフスタイルなどを考慮し、活動性の高い日に定期補充療法を実施している患者さんも増えてきていると思われます。これに加え、個々の薬物動態の情報をふまえて投与量や投与間隔を「患者さんごとに」設計することが血友病治療におけるテーラーメイド治療の一つの形なのです。

より一人ひとりに適した治療の実現のために

 薬物動態には個人差があり、自身の薬物動態を把握することが血友病治療において重要であることがご理解いただけたと思います。せっかく投与する製剤ですので、その効果をさらに引き出すためにはどうしたら良いか、一度かかりつけの医師や看護師と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。薬物動態を把握することはご自分の身体に関する情報が増えるということであり、そのことでより前向きに治療に参加できるようになっていただければ、こんなに嬉しいことはありません。

 より一人ひとりに適した治療法や投与法であるテーラーメイド治療と、その設計に重要な薬物動態についてご紹介しました。

あなたに適した治療法や投与量、薬物動態については、
主治医の先生にご相談ください。

※参考資料
1)福武 勝幸, 天野 景裕 編集, 血友病教育プログラム2015 ホームインフュージョンマニュアル 第四版
2)Björkman S. Haemophilia 2003;9(Suppl 1): 101-108
3)Morfini M. Haemophilia 2003;9(Suppl 1):94-99
4)Collins PW, et al. J Thromb Haemost 2010;8(2):269-275