ハロー! ドクター
血友病専門医が少ない中、専門外でも治療に携わる

今回このコーナーにご登場いただく村林先生は、新生児医療が専門のドクター。
血友病患者さんを受け持つことについて最初は戸惑いがあったとのことですが、治療に携わるうちに
「専門外であろうと、基幹病院として、また一人の小児科医として患者さんのためにできることがある」
という覚悟が芽生えたと言います。

目次


沼津市立病院 小児科部長
村林督夫先生

■PROFILE
1993年 日本大学 医学部卒 
専門は新生児科 小児科認定医、新生児暫定指導医、NCPRインストラクターの資格を持つ。


はじめに

 救急医療と専門診療を2本柱とする沼津市立病院は、沼津市はもとより裾野市、三島市、御殿場市など近隣市からも多くの患者さんが受診する、静岡県東部の中核病院です。
 こちらで血友病Aの男児2名の治療に当たっているのが、小児科部長の村林督夫先生。2人とも小学生(取材時)で、うち1人は家庭輸注を開始しているため、外来受診は1ヵ月に1回。もう1人は定期補充療法を外来で週2回行っているため、学校が終わってから通えるよう特別に配慮し、午後3時過ぎに診療を行っています。
 村林先生は、週2回顔を合わせるこの男児(以下、A君)を通じて血友病治療を学び、また小児患者と真剣に向き合うことの大切さと難しさを体験中だといいます。

専門医がいない中で、定期補充療法の実施を決断

 A君との出会いは、6 年前に遡ります。1歳だったA君が沼津市立病院を受診したときに血友病との診断をされたのが村林先生でした。先生は、最先端の血友病治療を行う静岡県立こども病院を紹介。A君はこども病院で入院治療を受けた後、日常的な治療として定期補充療法を勧められ、こども病院からA君の地元の沼津市立病院に治療の引き継ぎが打診されたのでした。
 それまで血友病患者さんを診た経験のない村林先生は、専門医がいない中で血友病治療を行ってよいものか、また週2回という高頻度で小児に注射する定期補充療法が果たして自分たちにできるのか、躊躇します。その背中を後押ししてくれたのは、「50キロ離れた静岡市まで週に2回も通うのは、患者さん親子にとって大きな負担です。ここで治療しましょう」という看護師の皆さんの言葉でした。スタッフの心強い協力が得られ、A君の外来での定期補充療法が始まりました。

真剣に向き合うことで信頼関係を構築

 ところが、外来でのA君の態度は、治療に協力的とは言えないものでした。片時もじっとしていずに診察室のおもちゃを振り回す。医療器具を触わる。他の診察室に勝手に入る…。
 「話をしても聞かないので僕もイライラしてしまい、あきらめにも近い心境で治療もいつしか通り一遍になっていました」と先生は当時を振り返ります。そんな治療が1年くらい続いたある日、先生は母親の表情に無言の抗議を読み取ったといいます。
 多くの患者さんやご家族と接していると、口に出さなくても表情で相手の気持ちがわかります。その顔は、『うちの子もちゃんと見てください』と言っているように見えました。そのとき、自分の態度を猛省し、もっと正面からこの子にぶつからなくては、と思ったのです。 時には厳しく指導することも必要だと考えを改めた先生は、A君がふざけたり、背中を向けて話を聞こうとしないとき、本気で叱るようになりました。「先生の顔をきちんと見なさい!」「先生は怒っているよ!」などと。
 「まだ幼いとはいえ、自分の病気と治療に真剣に向き合ってほしいから、真剣に怒ったのです」と村林先生。
 叱られた本人は、納得して話を聞くときもありますが、その一方で、ふてくされたり、また言い合いになったりすることもあり、未だ一進一退の状況です。それでも、少なくとも母親との間には信頼関係が生まれたと先生は感じています。抗議の表情は消え、A君を叱る先生を見るまなざしが温かいからです。時折、子育ての悩みなども打ち明けてくれるようになりました。
 「この病気の子のお母さんは常に頭の片隅でケガの心配をして、それは大変なストレスです。そんな母親の気持ちを少しでも汲み取ることも、小児科医の役割だと改めて気づかされました」と、村林先生は話します。

家庭輸注の頑なに拒否には柔軟に対応

 A君の家族は、1年前、A君の小学校入学を機に家庭輸注を希望。母親が注射の練習をし、家庭輸注への移行を試みました。しかし、A君は母親では泣いて注射を嫌がるばかり。本人に理由を聞くと、母親に注射されることに対して、特に抵抗を感じるのだと言います。暴れるのを無理やり押さえつけて注射をすると、事故につながりかねず危険です。
 1ヵ月様子をみたものの、慣れる様子は見られません。幸い、家が病院に近く通院の負担は少ないため、家族、先生、看護師で話し合った結果、家庭輸注は一旦中断、通院による輸注に戻しました。
 小学校入学というタイミングは、家庭輸注開始の一つの目安となっています。しかし、その時点でまだ家庭輸注を受け入れるだけの心の準備ができていないお子さんもいるのです。
 「まだ治療への理解度が十分でないA君の場合は、いったん中断してよかったと思っています。」と村林先生。
 A君は今年の5月から、また家庭輸注に挑戦します。渋々ではあるものの再挑戦を認めたA君の成長に、先生は期待しています。

医療者の連携で、患者さんをサポート


 村林先生はこれまでのご自身の経験から、血友病を診る医師同士の連携強化が患者さんの治療生活向上に役立つと訴えます。
 その一つは、地域内の医師同士の連携。血友病治療の課題として専門医が少ないことが挙げられますが、専門外のドクターでも専門医との連携を密にすることで、この課題は解決できるといいます。
 「僕の場合は静岡こども病院の堀越泰雄先生の心強いサポートがあるおかげで、専門外でもできることから始めようと前向きに取り組むことができました。血友病患者さんが暮らす各地域の病院・クリニックと専門医の間でこのような連携が図れれば、より多くの患者さんの通院ストレスが軽減できるのではないでしょうか」。
 そしてもう一つ、地域を超えた医師のネットワークも重要だといいます。
 というのも村林先生は、主治医として診ている2人の男児以外に、遠方に住む男児の定期補充治療を一時的に受け入れたことがあるからです。まだ家庭輸注を開始していない3歳児で、その子の母親の実家が近隣にあり、実家に帰省するには受け入れ病院が必要でした。偶然にもその患児の担当医が以前、静岡こども病院に勤務していたため、こども病院を介してより実家に近い沼津市立病院が紹介されたのです。
 「治療履歴などはメールのやりとりで引き継ぎ、患者さん家族には不安なく帰省を楽しんでもらえました。このような形で、帰省や旅行など患者さんの行動範囲を広げるサポートができることをうれしく思います」。
 医療者の連携で生まれるメリットをもっと多くの患者さんに享受してほしい、と村林先生は願っています。

沼津市立病院
〒410-0302 静岡県沼津市東椎路字春ノ木550
TEL:055-924-5100
● 病院データ
小児科の夜間診療は当院を含めた近隣3病院が持ち回りで行っているが、血友病患者さんは緊急リストに記載され、当番ではない日も必ず沼津市立病院で診察する仕組みになっている。

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