関節について知ろう!

はじめに

血友病性関節症(障害)は、血友病患者さんによく見られる重要な合併症です。
『ファイン』第2号の付録DVDで「関節に出血したら関節の中で何が起こる?」をご紹介したところ、読者の皆様から「もっと関節について知りたい」というお声をいただきました。
そこで今回は関節について知ろう!をテーマに、基本的知識から手術、また近年広まりつつある血友病の包括的診療の中でのリハビリテーションまで、各専門の先生方にうかがいました。

関節について知ろう!-目次

竹谷英之先生

血友病患者さんと関節


まず、関節に正しい知識を持ち、対処法を知りましょう。
出血予防と早期治療が関節障害を起こさないための基本です。


東京大学医科学研究所附属病院 関節外科 講師 竹谷英之先生




Q. なぜ血友病患者さんは関節が悪くなるのでしょうか

A. 関節内出血により関節に沈着する鉄が原因とされています。
 血友病患者さんでは、筋肉内出血や皮下出血そして血尿などさまざまな出血が見られます。その中で関節内出血が起こると、関節内に鉄が沈着します。この鉄が刺激となって、関節軟骨が障害され、そして関節が破壊されます。しかし関節内出血と関節障害の程度との関係については全く分かっていません。つまり何回同じ関節に出血が起こると関節が障害されるのか? 大出血だと関節が障害されやすいのか? どれぐらい出血を起こさないでいると、関節内出血の影響がなくなるのか?など全く分かっていません。そのため出血させない(予防)と出血したらすぐに止血する(早期治療)が関節障害を起こさないための治療の基本になります。

Q. 血友病でよく悪くなる関節はどこですか

A. 肘、膝、足関節に関節症は好発します。
 一般的に関節内出血が起きやすい関節として、足、肘、膝関節が挙げられます。特に足関節は最初に出血しやすい関節で、最も障害されている関節です。そのため小児期では特に注意が必要な関節となります。青年期以降では、特に膝関節が日常生活への影響が大きく問題となります。その他股関節や肩関節にも関節障害が起こります。しかし手関節や手指・足趾の関節に関節症が起こることはほとんどありません。

Q. 関節が悪くなるとどうなりますか

A. 出血していなくても関節痛が起こり、関節の動きが制限され、日常生活に支障が出ます。
 一般的に関節が破壊されることにより、出血がなくても関節痛が起こります。そして関節の動きが悪くなってしまい、日常生活に支障が出てきます。ただ障害される関節によって症状は若干違います。
【肘関節】体重を支える関節ではないので、痛みが強く出ることは少ないですが、手のひらを顔の方へ回す(回外運動)が難しくなります。そのためお釣りが貰い難くなったり、顔を洗い難くなります。また肘の変形がすすむと小指が痺れ、握力が低下することがあります。
【膝関節】膝を伸ばすことが難しくなり歩きにくくなります。また歩行時の疼痛や椅子から立ち上がる時に関節内の引っかかる感じや疼痛が起こってきます。
【足関節】足関節を引き寄せる(背屈運動)が制限され尖足位になります。足の甲の痛みが中心で、内・外くるぶしの下端に痛みが出ることもあります。

Q. 関節の障害は回復しますか

A. 関節軟骨がひどく障害されると関節は一般的に回復(再生)しないと考えられています。
 小児では軽度の軟骨損傷程度の関節症であれば、回復を期待して治療を行っており、回復する場合も経験しています。一方成人では関節の軟骨が破壊されている場合には、保存的には回復は期待できないと考えています。ただ滑膜切除を行った後にレントゲン的に関節の修復が行われたように判断できる場合もあります。

島田幸造先生

血友病性関節症に対する外科的治療とその進歩



大阪厚生年金病院 整形外科 部長(災害外科担当) 
島田幸造先生





血液製剤の進歩と外科的手術の意義

 かつて血友病は怖い病気でしたが、血液凝固因子製剤が開発され広く使われるようになって、今や恐れるべき疾患ではありません。関節内出血も適切に製剤を使用することで止血できるようになり、子どもの時から注意して出血時には迅速に製剤を注射する、あるいは定期補充を習慣づけて関節内出血を起こさない、といった注意によって血友病性関節症は予防できつつあります。しかし、それでも不幸にして関節内出血を繰り返し、そこに出血しやすい病的滑膜が増殖してしまうと、注射による製剤の投与だけでは出血を防ぎ切れません。特定の関節に出血を繰り返すなら、手術によって増殖した病的滑膜を除去することが効果的です。実際、血友病性関節症の患者さんの病的滑膜を手術で切除すれば出血頻度が減ることは知られていました。血液製剤の投与による止血管理が不可欠ですが、製剤の進歩により今や外科的滑膜切除は十分可能です。

関節外科手術の進歩

 ただし関節手術にも問題があり、それは術後拘縮と呼ばれる手術後に関節が固くなってしまうことでした。メスを入れた部位が治る時には瘢痕という固い組織ができますが、関節手術も例外ではありません。病的滑膜を切除しようと関節を大きく切って隈なくその中を処置すればするほど、術後の瘢痕は強くなります。手術で関節内出血はしにくくなるものの関節の動きが制限され、機能的には術前よりも悪くなってしまうケースが多く出てしまいました。そんな中で1950年代に日本で関節鏡という関節用の内視鏡が開発され、その後、手術器具や技術の発展により、関節鏡で関節内を隅々まで観察し滑膜を切除することが小さな傷で可能となりました。処置のしやすい膝からこの技術は広まり、今では全身の関節が関節鏡で処置可能になりつつあります。整形外科医なら誰でもが行える一般的な手術、とまでは言えないにせよ、血友病性関節症で問題となる膝、足、肘は技術に習熟すれば関節鏡下での滑膜切除が可能となりました。その結果、術後拘縮が減って関節機能を損なわない(時には術前より改善する)滑膜切除が可能な時代になりつつあります(図1、2)。
 不幸にして関節の変形が進んでしまった患者さんには、人工関節と言う選択肢もあります。耐久性の問題などからいまだ若年者には強く勧められませんが、それでも血友病性関節症の手術による機能改善の道は開けつつあります。

図1:18歳男性、血友病性関節症の左肘術前Xp/MRI。
図1:18歳男性、血友病性関節症の左肘術前Xp/MRI。
関節面の骨びらん(Xp)と関節内に増殖した滑膜(MRI)がよくわかる。

図2:術後2年のXp/MRI。術後、骨は改変し(Xp)病的滑膜は消失して(MRI)、
患者は術後肘の可動域が改善し、関節内出血も起こさなくなった。

リハビリテーションの意義

 なお、関節機能温存のためにはリハビリテーションも重要です。出血による痛みで廃用性に筋力が落ちて関節の安定性が損なわれると関節軟骨へのダメージが起こり易く、また関節手術後の機能回復にも、リハビリテーションは不可欠です。ただし、血友病の病態を無視した乱暴なリハビリは関節内出血を助長しかえって有害です。特に術後のリハビリでは事前の製剤投与など入念な準備のもと、障害部位に過重な負荷をかけない愛護的なリハビリを進めることが大切です。製剤・外科的治療・リハビリテーションの3者が揃うことで患者さんの関節機能は維持され、QOL(Quality of Life: 生活の質)も改善します。

東京医科大学病院 リハビリテーションセンター 上野竜一先生

包括的な診療体制で安全に行えるリハビリ



東京医科大学病院 リハビリテーションセンター 
臨床講師上野竜一先生





リハビリをしたことがない患者さんが多数

 最近、血友病患者さんの診療について、血友病専門の医師の他に、整形外科、リハビリテーション(以下リハビリ)科、歯科口腔外科の医師、看護師、理学療法士、作業療法士など多くの医療関係者、また患者さんのご家族など関係する多くの方々が参加できるような包括的な診療体制が望まれてきています。現在当院では、血友病の専門診療科である臨床検査医学科の紹介を経て、血友病患者さんをリハビリの面からサポートする体制を作りつつあります。その中で見えてきたことは、これまでリハビリについての指導を受け、実際に行ってこられた患者さんが思っていた以上に少ないことや、一般的に変形性関節症などの関節変形にはサポーターなどの装具が有用ですが、血友病患者さんではご自身でいろいろな工夫をされて装具の代わりに使用されていて、実際の装具を初めて見るといった患者さんも多いことがわかりました。これまでは、患者さん自身が出血を恐れて体操などを行うことが少なかったこと、血友病患者さんを診察する医師の側でも出血に対して慎重であり、さらには血友病患者さんに対してリハビリを処方することを避ける、あるいは最初から血友病患者さんに対しての運動の適応がないとして、患者さんの状態について十分な観察がなされないような状況があったのだろうと思われます。さらにリハビリを処方する医師が少ないことから、その処方に基づいてリハビリを行う理学療法士、作業療法士なども、血友病に対するリハビリの専門的な知識を得る機会が少なかったのではないかと思われます。

専門家の指導で適切なリハビリを

 最近の薬の進歩や定期補充療法などの効果的な治療法が広まるにつれ、出血の頻度が減り、管理もしやすいことから、リハビリを安全に行えるようになってきています。さらに止血管理を担当される先生との連携を深めることで、もしもの出血の際にも対応できるようになります。担当する療法士も運動の強度を患者さんの状態に合わせて設定することができ、患者さんが自己流で不安を持ちながら体操や運動療法を行っていた状況を変えることができます。他にも関節を保護するサポーターなどの装具や、靴の選定も義肢装具士や担当の理学療法士を交えて行うことができる等、包括的な診療体制をつくることでいろいろなメリットが生み出されるものと思います。

東京医科大学病院 リハビリテーションセンター 石山昌弘先生

関節のリハビリテーション




東京医科大学病院 リハビリテーションセンター 
理学療法士石山昌弘先生





「出血しにくい関節」を目指す

 血友病患者さんの関節のリハビリは、「出血を起こした後の関節のリハビリ」、「関節の手術をしたあとのリハビリ」の大切さは言うまでもありませんが、「出血をしていない時の関節のリハビリ」もとても重要になってきます。
 この「出血してない時の関節のリハビリ」とは、外来で定期的に運動(リハビリ)を行い、自宅でのトレーニングメニューや目標を私たちセラピストと一緒に設定したり修正したりして関節周囲の筋力をアップさせます。さらに必要であれば装具などで適切に関節を保護することで、関節の負担を軽減し出血しにくい関節を目指します。また、定期的に運動をすることで関節機能が改善するだけでなく心肺機能も高められ、活動性や行動範囲が広がり、より充実した日常生活の実現につながります。そしてとかく運動不足になりがちな中高年の血友病患者さんには成人病対策にも効果を発揮します。

「運動は避ける」から「出血をしないための運動をする」へ

 当院では患者さんの関節の状態にもよりますが、関節周囲の筋力アップトレーニングだけでなく自転車漕ぎによる体力アップや、不安定な板の上に立ちバランス能力をアップする運動など、よりダイナミックな動きのトレーニングも行っております。
 リハビリ開始当初は運動することに大きな不安を感じていた患者さんたちも、徐々に運動することに対して積極的になり、動作や歩行の改善が実感できるとさらに運動へのモチベーションが高まり、身体機能がアップしていきます。
 また血液製剤の定期補充を行っている患者さんは輸注日とリハビリの日を合わせてもらい、より安心してリハビリに取り組んでいただいています。
 このように近年は「出血するといけないから運動はしない」という考え方から「出血しないようにするために適切な運動を行う」という考え方に変わってきています。
 各地域に血友病のリハビリテーションを積極的におこなっている施設があります。まずは主治医の先生にご相談してみてください。

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