ハロー! ドクター
お子さんの頑張ろうとする力を引き出す

目次

はじめに

医師と看護師のチームワークで血友病のお子さんと家族を支える、
沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児血液腫瘍科。
現在、血友病は長期にわたって注射が必要な病気だけに、
小さなお子さんを注射嫌いにさせないための取り組みに力を入れています。
“帰るときは笑顔”をモットーにした、その取り組みとは…。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
小児血液腫瘍科
嘉数真理子先生

■PROFILE
嘉数真理子先生(かかずまりこ)先生プロフィール
2004年、琉球大学医学部卒業。同年より06年まで、沖縄県立中部病院にて初期研修。06年より09年、同病院小児科にて後期研修。09年、静岡県立がんセンター小児科医師。10年、静岡県立こども病院小児血液腫瘍科医師。11年より現職。





新しい治療体制づくりで県内の血友病治療に貢献を

 沖縄県全域の小児を対象に、高度な専門医療を提供する沖縄県立南部医療センター・こども医療センター。同センターで血友病治療に力を入れて取り組んでいるのが、嘉数真理子先生です。嘉数先生は1年間研修先の静岡県立こども病院で最先端の血友病治療を学び、2011年4月に沖縄県立南部医療センター・こども医療センターに戻りさらに充実した血友病治療体制づくりを進めています。
 目指しているのは血友病の包括外来開設と地域の小児科との連携。患者さんが普段はかかりつけ医を受診し、年に一回定期的に沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの包括外来で血液検査、感染症のチェック、インヒビター発生の有無チェック、関節の評価を行うレントゲン検査、歯科治療などをまとめて受診し、その結果をかかりつけ医にもフィードバックし、かかりつけ医と包括外来の双方で連携しながら治療を進めていくイメージです。
 「これまで県内の血友病治療は各医療機関が各々に行っており、十分なトータルケアが確立されていたとは言えない状況でした。今後当センターとかかりつけ医と連携する体制を整えられれば、患者さんも、通常受診している地域の各医療機関の先生方も安心されると思うのです」と、嘉数先生は構想を語ります。
 しかし整形外科や歯科など他の診療科と一緒に包括外来を立ち上げるには、様々な準備が必要です。そこで昨年はまず初めに小児科の看護師数名と一緒に血友病チームを作り、協力体制を整えました。勉強会などを通じて知識や指導法を習得した看護師たちが、現在、強力なサポートをして嘉数先生とともに血友病のお子さんや家族の治療にあたっています。

定期補充療法は1歳からスタート

 沖縄県立南部医療センター・こども医療センターでは、重症の血友病患者さんに定期補充療法で治療しています。「1回でも出血症状があれば定期補充療法導入が望ましいため、今のところ1歳くらいから製剤の投与を始めています。また最新の報告で、出血を起こす前の生後10ヵ月くらいからの定期補充が推奨されていることを聞いたので、今後、新規の患者さんについては開始のタイミングを早めるつもりです」と、より積極的な定期補充療法導入に意欲を見せます。
 定期補充療法とオンデマンド療法(出血したら注射をする治療)の違いを実感した症例もあると言います。「それまで大きな出血がなかったためオンデマンド治療を行っていた9歳のお子さんが、他の病院から紹介されて来ました。当センターで定期補充療法に替えたところ足の痛みが消え、控えていた運動もできるようになったと喜んでいました」。明らかな出血がない場合でも自覚のない出血が体の中で起きている可能性もあるため、定期補充療法に切り替えることで生活の質は上がる可能性がある、と先生は考えています。

“帰るときは笑顔”をモットーに

 お子さんが小さいうちは皮下脂肪が厚くて血管が見えにくいため、家庭内注射は容易ではありません。そこで同センターでは1〜3歳のお子さんは週に2〜3回通院してもらい、外来で看護師が定期補充療法を行います。このとき、いかにお子さんを注射嫌いにさせないかに気を配っています。
 「注射を打つときは看護師が押さえつけたりせずに、親御さんの膝の上にのせ、お子さんに自分から腕を出してもらいます。アニメやおもちゃを見せながら楽しい雰囲気の中で注射をし、終わった後は頑張ったご褒美にシールやカードをあげます。すると次回も自分から腕を出してくれるようになります」と、血友病を担当する看護師の一人、與那嶺優子さん。
 嘉数先生も「子どもは経験値が少なく未知のことは怖がるため、事前にわかりやすく説明することも大切です。子どもなりに理解すると、頑張る力が引き出せます」と続けます。 
 お子さんが「病院に来て痛いことをされて嫌な思いをした」ではなく、「痛いことをされて泣いたけど頑張った」と自信を持って笑顔で帰るのが目標です。血友病は現在のところ生涯にわたってつき合う病気ですので、成長するにつれ患者さん自身が治療に積極的に関わる必要があります。だからこそ幼い頃の成功体験が大切なのだと言います。




保育園や幼稚園への入園、保因者の女性の妊娠・出産など、人生の節目ごとに生じる悩みに対して相談に応じながら治療をサポートする血友病チームの皆さんと嘉数先生(右端)。右から2人目が看護師の與那嶺優子さん







3歳から家庭内注射へ移行

 3歳くらいになると体格が大きくなり手足が伸びて、血管も見えやすくなります。同センターではこのタイミングで家庭内注射への移行を促します。家族に家庭内注射の意思を確認すると、最初は医療従事者でもないのに注射をすることに不安を抱く方は少なくありません。そんなとき嘉数先生は、「誰よりもお父さんお母さんに注射してもらう方がお子さんも安心です。慣れてくれば必ず上達するので、少しずつ練習しましょう」とアドバイスして、背中を押します。
 家庭内注射の指導も看護師が主体となって行っています。手洗いの方法から製剤の溶解の手順、模型を使っての注射の練習、両親がお互いの腕で刺す練習と段階的に進めます。患者さん個別に指導計画を作成し、理解や習熟の度合いによって進め方も臨機応変に対応する看護師のきめ細かな対応に嘉数先生は全幅の信頼を置いています。また両親が注射の練習に集中できるよう、その間、お子さんの面倒は病院ボランティアがみるなど、医師、看護師、ボランティアが協力して血友病のお子さんと家族を支えています。

将来的には患者会のサポートも

 包括外来の開設とともに先生が今後の目標に挙げていることは、患者会のサポートです。患者さんや家族のコミュニケーションの場を活性化させることが、心理的なサポートにつながると考えるからです。
 「研修先で参加した患者会主催のキャンプに触発されました。診断されたばかりの乳児と家族から年配の患者さんまで、様々な年代の方が集まり、お互いを支え合っていました。そんなよい雰囲気の中で、初めは尻込みしていた小学校5年生の患者さんが2日の間に自己注射をマスターし、感動しました。子どもの成長の機会にもなる患者会をうまく軌道に乗せるのも、私の今後の目標です」。沖縄県には39もの有人の離島が存在し、人口の少ない離島では特に患者さんが孤立しがちです。県の医療機関が患者会をサポートする意味は大きいはずです。
 最後に、嘉数先生から読者の皆さんへのメッセージをいただきました。
 「血友病治療の研究は、めざましい進化を遂げています。いずれ遺伝子治療により血友病そのものが治せる日が来るかもしれません。ですから将来への希望を持ちつつ、大人になったときに関節症などの合併症を残さないよう、定期補充療法を続けてほしいと思います」。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
〒901-1193 沖縄県島尻郡南風原町字新川118-1 
TEL:098-888-0123 FAX:098-888-6400
URL http://www.hosp.pref.okinawa.jp/nanbu
救急対応は24時間。夜間に頭蓋内出血を起こした場合など万が一の救急診療に備え、どの医師でも対応できるように電子カルテには出血時に投与する製剤量も記載されている。

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