血友病の「最適治療」を知ろう!≪座談会≫
血友病の最適治療のために 〜患者さんとご家族が考慮すること

血友病の「最適治療」を知ろう!-目次

はじめに

血友病の治療は、止血中心の治療から「出血回数を減らして、関節症などの合併症の悪化や発生を防ぎ包括的に診療する」最適治療を目指すものに変化しています。そこで本誌では、血友病の包括医療を提供する2つの病院、東京医科大学病院(以下、東京医大)と産業医科大学血友病センター(以下、産業医大)から医師と看護師にお集まりいただき、専門病院ではどのような考え方に基づいて治療が行われているのか、また提供される治療を患者さんが上手に生かすためには、どのような心構えで利用したらいいのか、輸注記録の大切さも含め、最新の状況をお話しいただきました。

出席者


■出席者


産業医科大学病院 血友病センター(福岡県北九州市)
助教 酒井道生先生/看護師 小野織江さん

東京医科大学病院 臨床検査医学科(東京都新宿区)
教授 天野景裕先生/看護師 佐藤知恵さん

 

専門病院では血友病のチーム医療が進んでいる

出席者

天野 東京医科大学病院は東京都新宿区にあり、都内だけでなく千葉県、埼玉県などの近郊から来院される方もいらっしゃいます。当院には臨床検査医学科という血友病専門の診療科があり、24時間365日、専門医が血友病診療に当たる体制が整っています。
出席者 佐藤 また当院では、血友病の患者さんはお子さんでも、小児科ではなく「臨床検査医学科」で診療を行います。0歳から70歳を超えた方まで、幅広い年齢層の方々を長期的に診療しています。
酒井 産業医科大学病院は、福岡県北九州市にあります。当院では、所属部署の業務との兼任になりますが、「血友病センター」というチームを組織し、小児科、整形外科、リハビリテーション科、口腔外科といった多科連携による血友病の包括医療に取り組んでいます。その中核は月1回開催される「血友病総合外来」で、各科担当者が総合外来ブースに一同に集まり、患者さんを効率的に総合評価できるシステムを作っています。
小野 私たち血友病を専門とする看護師が専従でいることも特長だと思います。最近は当院で治療をしていない患者さんでも、患者会や他施設の主治医を通し、「自己注射の指導のみお願いします」という依頼も増えています。
佐藤 東京医大では他疾患の専従看護師が実務上専門で、血友病患者さんの看護に当たっています。産業医大では患者会の活動も活発とうかがいましたが…。
小野 はい。患者会とのつながりが強く、患者会の運営や企画のサポートなどを一緒にしています。福岡県のヘモフィリア友の会のほかにも、他県の患者会や、患者会のない県の患者さん、家族の方たちとも相談やコーディネートを通じて交流し、勉強会やサマーキャンプの窓口になったりもします。

血友病の専門医がいない地域で治療を最適化するために

出席者 酒井当院や東京医大のように血友病専門スタッフが揃った病院では、定期補充療法が適切に導入され、患者さんは整形外科や歯科とも連携した包括医療が受けられており、血友病治療は最適化に向かって進化しています。その一方で血友病の専門スタッフがいない施設で、旧来の止血中心の医療を受けている患者さんも多くおられると思います。
出席者 小野 最初の診断は専門医が行っても、その後は近隣の施設で製剤を処方してもらっているだけで、長く血友病についての専門的評価を受けていない方も少なくないですね。
佐藤 治療の情報だけでなく、血友病の医療費助成制度などについても知らないために、利用できていない方がいらっしゃったと聞いたこともあります。
酒井 そういった方が当院を受診するきっかけとしては3つのパターンがあります。1つは関節症が悪化し、相談に来られる。2つ目が、自己注射を早く習得したいけれど近隣の施設では指導できないので紹介を受けてくる。3つ目はインヒビターが発生し、止血管理に困って受診する場合です。
天野 東京医大では、そういうふうに当院を利用し始めるケースというのはあまり多くないですね。
佐藤 当院では、進学や就職などで首都圏に来たことで受診する患者さんが多いです。地方の専門病院で診断後、20年近く地域の一般医で定期補充療法の処方をしてもらっていた患者さんが、進学・就職を機に当院を受診したところ、定期補充に不十分な小児用の製剤単位で処方がされていたという例もあります。
酒井 地域間の格差は問題ですね。九州では、そういった治療格差を解消するために、血友病センターと地元の一般病院や開業医との連携システムを育ててきました。地方で数人のみの血友病患者を診ている専門医ではない医師から、治療方針の相談や患者さんの総合評価をセンターに依頼されることも増えました。
小野 患者さんを地方で診察している医師が、判断に困ったときには「血友病センターに相談できる」という仕組みがあることで、安心して治療ができるのだと思います。地方の総合病院では、担当医の交代が多く、患者さんも「治療は私の方が知っている」と思い込み、自分の都合のいいように解釈して自己注射をしている例がありました。きちんとした輸注記録もないため、医療者側も踏み込んで指導できないケースがあるようです。
天野 それは定期的に専門医による診察を受けて、治療を見直す必要がありますね。
佐藤 もし専門的な医療を提供できる医療施設が近くにない場合も、患者さんが最新治療について情報を得られれば、適切な医療機関を探すこともできますね。

患者さんが自分自身のことを知るために欠かせない輸注記録表

天野 患者さんは、ご自身の病気や治療法について積極的に情報を得ることが大切です。自分自身の情報を把握するには輸注記録表が欠かせません。
小野 酒井先生は、毎回診察のたびに患者さんに「輸注記録書いてきた?」と必ず尋ねていますよね。
酒井
 輸注記録は適切な治療を行う上で絶対必要な情報だからです。
佐藤 携帯でも入力できるようになり、記録をつける若い方が増えましたね。
小野
 輸注記録は患者さんの「義務」で、それを自己注射指導開始時に教えるのは私たち医療者の「責任」ですね。
酒井 患者さんは「義務」だと認識すれば記録をつけるようになります。それを後で振り返ると、記録しなければわからなかったことが患者さん自身にも見えてきます。たとえば、これまで出血頻度も少なく、不定期の補充で大丈夫と判断していたけれど、実際に輸注記録をつけてみると、本人が思っていた以上に同じ関節に繰り返し出血している事実が明らかになることもあります。
 その他にも「注射をしたのが半日後だったために効果が弱く、何回も続けてそのあと追加で注射をしなければならなかった」とか、「出血後1時間で注射したらすぐ痛みが消えよくなった」など、出血してから製剤を打つまでの時間と効果の関係なども輸注記録のつけ方次第で見えてきます。
天野
 たとえば3ヵ月に1回受診し、まとめて製剤を処方する患者さんの場合でも「この間何回か出血があったけど、それなりにやっていました」というような答えだと、診察はそれで終わるしかない。もし輸注記録表に詳しく記入されていれば、医師は3ヵ月の状況を検証することができる。それが後々の関節症予防に役立つわけです。

医師と患者の治療連携に輸注記録を役立てよう

佐藤 東京医大では、現在約7割の患者さんが輸注記録を提出しています。まとめて書いてくる方も多いですが、記録を提出しようという気持ちをまず評価したいですね。
小野 当院では現在100%に近い提出率だと思います。患者さんが「先生は、まず診察室に入ったら、必ず記録表は? って言うんだよね」って私にこぼすんです。それで「いや?」って聞くと、「そう言われて、記録を見直してみると、自分がどんなふうに出血していたか、意外とどこが弱いかっていうのがわかってきたから、よかったと思うよ」と返事がきます。「レコーディング・ダイエットをするように、結構見えてくることがあるよ」っていう勧め方もいいなと思います。
佐藤 モバイルの記録もグラフ化されたりするので便利ですね。たとえば自分は毎年ある季節や月に、出血が多いようだという年単位の変化も可視化でき、季節や環境や自分の行動など自分のライフスタイルと重ねて管理しようという意識もできるようです。
小野 家庭輸注を許されたということは、患者さんが治療全体を任されたこととは違います。輸注記録の提出は自分の判断だけで治療を勝手にしてはいけない、記録を主治医に見せ、共通の情報をもとに一緒によりよい治療に参加するという意識が大切ですね。
酒井 定期補充療法をしている人でも記録があれば、出血したときの対応やそのタイミング、その後の製剤の打ち方などを個別に指導できます。
小野 私は他院から自己注射の指導だけ依頼された患者さんに対しても、輸注記録の大切さを必ず指導します。「注射を習った時に、輸注記録を先生に見せないといけないと教えたでしょう? だから、地元のかかりつけの先生にも毎月提出してね」と告げます。在宅自己注射療法は、導入時の指導もさることながら私たち医療者の継続的なフォローアップが成功につながる重要なポイントであり、患者さんが提出する記録に関心を持つことが大切だからです。

軽症や中等症の患者さんこそ医療機関とつながっておこう

天野 ところで、治療をしていて課題だなと感じるのは、重症の患者さんよりも、むしろ軽症の患者さんです。
佐藤 軽症の方ですと、年に一度、医療費関連の書類を書いてもらうためだけに来院する方もいます。それ以外は、どこかをぶつけたとか、出血したということで、注射を打ちに来る場合ですが、めったに来院しません。
天野 軽症の方は、ご自身でも出血の判断が難しく、小さな出血、筋肉内出血などがあっても、来院しないことが多いです。ところが、本人も意識しない小さな出血が積み重なることで、実は関節の状態がじわじわと悪化して、ある時急に関節が悪くなってしまうこともあります。症状が軽度に見えてもなるべく早く専門の病院に行くことをお勧めしたいです。
酒井 軽症、中等症の患者さんでも出血の記録があればそれを参考に、どういった状況で注射が必要なのかを一緒に考えることができます。出血の頻度が高いと判断すれば、大人を含めて定期補充療法への切り替えを検討できます。
小野 軽症の患者さんの場合、実際には出血による痛みの場合でも、「肉離れかな?」とか「捻挫かな?」などと考え、治療が遅れがちになるため、関節症が重くなることがありますね。
天野 大きい出血を1回したことで、足が伸びなくなってしまった患者さんもいます。出血した時は重症度にかかわらず早くケアすることが大事です。
酒井 また出血時には、製剤の注射以外の対応も必要なことを知っておいてほしいです。局所の安静や、冷やすなどのケアも重要です。注射をしても補充した凝固因子が100%の状態を維持できるわけではないので、出血は止まりやすくはなりますが、適切な安静が保たれなければ治るのに時間がかかります。
佐藤 病院に行くことの少ない軽症の患者さんこそ、出血をした時などが専門医とコミュニケーションできるチャンスです。その機会を逃さず、医療と定期的な関わりを持ってください。

再認識しておくべき血友病患者の抱える日常のリスクと対処法

天野 患者さんが子ども時代は親が熱心に管理をしますが、成人すると本人の治療への関心が低くなります。しかし、依然として日常生活やスポーツなどで頭を打撲した時のリスクは血友病でない人よりずっと高いのです。また血友病の方は加齢に伴って生活習慣病をより真剣に予防する必要があります。軽症の方でも、高血圧や動脈硬化性疾患があれば、それが頭蓋内出血につながりやすくなるためです。
佐藤 軽症であっても、将来的なリスクを、医療者も早めに伝えるべきですね。私は日常的に定期補充療法をしている幼児や若い世代の重症の血友病患者さんについても、出血経験が少ないことで、病気や出血防止に対する切実さが足りないことに時々不安を感じます。
小野 同感です。でも軽症の方で出血の経験が少ない方と、重症で定期補充療法を幼い頃からしている患者さんの違いはやはり、自己注射を習うときに、ある程度勉強している点ですね。「これは自分に必要な薬だ」とか、「注射をしなければ出血する」ということを学習してきたかどうかは大きな違いです。

人生の節目に病気とのつき合い方を確認し、医師・看護師とともに考えよう

酒井 私は、患者さんの入園・入学時に医療者と親、担任、保健の先生が一緒に話し合いの場を持つようにしています。中学生なら本人も参加してもらい、自分の病気に対する理解を深め、自己管理する動機づけの機会とします。進学、就職、結婚など、環境が変わる節目も同様に貴重なチャンスです。
佐藤 時々「生活についてのことを先生に言っていいとは思わなかった」と言う患者さんもいます。でも包括的に血友病治療をサポートしようと考える医療者側にとって患者さんの生活上のことは重要な情報です。
小野 血友病はライフイベントにも深く絡んでくるので、その患者さんの計画や希望を踏まえて、医療者と患者さんが一緒に治療計画を考えて行くのが理想ですね。
佐藤 治療計画は改めて個室で相談するという形をとることもありますが、私は注射で処置室に入った時などが、患者さんと話をするよい機会だと思っています。自己注射の医療廃棄物を受け取るときに、一言、二言、話すだけでも日常生活の変化などについてお話しをいただけることもあります。
小野 患者さんも複数の会話のチャンネルをもっていて、色々な話題について、これは医者に言っておこうとか、ここは、看護師、これはソーシャルワーカーに話そうとかあると思います。
佐藤 はい。たとえば、中高年の患者さんの家族関係なども案外知らないこともあり、改めて聞き直してみたら、一人暮らしだったとか、今度、娘さんが結婚するとか、介入のポイントや情報が変わっていることもありますね。
小野 生活上の変化や悩みなどがあれば、「ちょっと相談に行っていいですか」と声をかけてもらってもいいですし、私は電話や、メールで相談を受けることもあります。医療機関により対応できる人材があるかどうか、状況は違うと思いますが、患者さんの日常を知り、コミュニケーションすることは治療をする上で大切なことだと感じています。
佐藤 ところで、患者さんが学生の時には医師と学校の連携などが大事ですが、就労についてはどうでしょう。
酒井 就職活動でも最近は病気のことは言わないで、就職する人が多いですね。仕事を始める前に患者さんとはよく話し合うようにしていますが、病気は伏せて就職するという患者さんは多いですね。就職後、機会をみながら、信頼できる人にだけ話していくというスタイルでいいのではないでしょうか。
天野 私もそう思います。
小野 職場で病気のことを話す場合でも、病名を言わずに、「脚の関節が悪いんです」とか、「重い物を持ったらちょっと関節にくるので」という言い方でもいいですよね。
佐藤 ただ会社に病気のことを言っていなければ、会社に製剤を常備することは難しいですね。出血した場合、遅い時間になっても帰宅してから注射するしかない。会社に製剤を保管していないので、出血を我慢するしかないという問題はありますね。
小野 会社には製剤をストックしてない人が多いのではないでしょうか?
天野 在宅注射に関するアンケートで、仕事中の出血の際、すぐ輸注できない人が約4割でした。働いていると臨時に注射を打てないという問題を解決するためにも、やはり定期補充療法が有効だと思います。
小野 働く世代の患者さんが定期補充療法をされる理由というのは、やはり職場で、出血したくないということでしょう。会社を休んだり、早退しなくてはならなくなったら、生活にいろいろな不都合が起きますから。

明るい未来のために今、しておきたい関節症の予防

天野 現在、長時間持続製剤の開発も進んでおり、2、3年くらいの間には実用化されるでしょう。週2〜3回の自己注射が、週に1回、あるいは2週間に1回の自己注射で済むような薬剤も出てくるはずです。さらに負担の少ない治療が可能になってきます。新しい治療の情報を自分でもどんどん手に入れていくとよいでしょう。
小野
 患者さんにとって、病気について正しい知識を持つことは、自分を守るための大事な手段です。情報を得て、記録をつけ、医師や看護師と一緒に治療に向きあっていってほしいです。
佐藤
 新しい情報の収集は大事ですね。小児の患者さんの場合、お母さんが血友病という病気に興味を持ってもらい、与えられる情報だけでなくて、患者会やインターネットなどの情報にも自分から積極的にアクセスしていってほしいですね。もし情報を選ぶ時に迷ったら私たち専門の医療者に相談してください。また最近は患者会に所属する方が少なくなっていますが、横のつながりを作ることも大事です。同じ病気を持つ方々との交流により精神面や社会面でもいろいろなサポートが得られるはずです。
酒井
 天野先生が先程おっしゃったとおり、新しい治療薬が使えるようになると思うので将来的な見通しは明るいです。しかし、どんなにいい治療法ができても、その時点で関節症が進んでしまっていたら、享受できる恩恵が半減してしまいます。まず、今できる正しい止血管理をし、関節症の予防をきちんとしておきましょう。そうすれば今後患者さんの未来はさらに明るくなると思います。

◎産業医科大学病院 血友病センター(福岡県北九州市)  
 http://www.uoeh-hospital.jp/hospital/
◎東京医科大学病院 臨床検査医学科 (東京都新宿区)  
 http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/
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