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定期補充療法は、未来を見すえた治療法

【定期補充療法は、未来を見すえた治療法】目次

はじめに

大阪市で最先端の血友病治療を行っている大阪赤十字病院。患者さんの思いに寄り添い、一緒に悩み、問題を解決する方法を常に考え実行に移している小児科の朴先生にお話を伺いました。

朴 永東先生
大阪赤十字病院 小児科 副部長
(現、医療法人上本町ぼく小児科院長)

朴 永東先生

■PROFILE
朴 永東(ぼく えいとう)先生プロフィール
大阪赤十字病院 小児科副部長
血液腫瘍担当 医学博士
日本小児科学会 臨床研修指導医/専門医
日本血液学会 指導医/専門医
日本小児血液・がん学会 暫定指導医
日本がん治療医認定機構 暫定教育医/認定医
日本輸血・細胞治療学会 認定医

朴 永東先生

家庭注射の練習では、自分の腕を練習台に差し出す朴先生。
患者家族に失敗の恐怖感を植えつけないよう、
たとえ痛くても微塵も顔に出さず笑顔で指導を行っています。

朴先生の緊急時ホットライン
24時間365日

今現在のベストな治療を行うのが医師の使命だから

 大阪赤十字病院は大阪市内および近郊から約40名の血友病患者さんが集まる、地域を代表する病院です。約8割を占める重症患者さんのうち0〜2歳児を除くほぼ全員が、小児科副部長・朴先生の指導のもと定期補充療法(出血の有無にかかわらず週に2〜3回、決められた量の薬剤を注射する治療法)を行っています。
 定期補充療法を治療の基本にする理由を朴先生は次のように説明します。「血液凝固因子製剤を定期的に補充していれば、出血による関節障害は防げます。血友病のお子さんも、そうでないお子さんとまったく同じように活動できる。たとえば運動会で1等賞をとるのも夢ではないのです。以前は製剤の中に病原体が混入する問題や供給量の不足があり、定期補充はできませんでした。その結果、残念ながら現在30歳以上の患者さんの多くは関節障害を抱えています。しかし今では病原体感染リスクのない「ヒトおよび動物由来たんぱくを使用しない」製剤ができたことにより、血友病治療は新しいステージに入っているのです。選択可能な中で最善の治療を提供する。それが医師の使命だと思っています」。
 また、定期補充療法は関節障害がすでに出ている患者さんでも必要な治療法です。「残りの関節機能を大切にする意味で有用ですから、あきらめないでほしいのです。当院でも、実際に60代でお孫さんと一緒に定期補充を始めた患者さんがいらっしゃるんですよ」。

家庭注射や自己注射を開始するタイミング

 大阪赤十字病院で行われている指導を患者さんの年齢別に見てみましょう。
 2歳頃までは子どもの血管が細くて、両親による定期補充が技術的に困難なため、最も注意を要するのが頭蓋内出血です。そこで患者さん家族は不安があればいつでも朴先生の携帯電話に連絡するよう指導されています。この緊急時ホットラインのおかげで、たとえば夜中に頭を打ってしまった場合でも、朴先生から当直医に一報が入り、必要な製剤投与やCT検査などがスムーズに受けられます。
 3〜4歳になり関節出血を起こし始める時期になると、家庭注射による定期補充療法を開始します。幼いわが子に針を刺すことに対しては、誰しも心理的負担が大きいもの。そこで母親だけでなく、両親揃って注射の練習をすることになっています。両親のいずれかがスランプのときにも、もう一方が代わりを務められるからです。両親が共通理解のもと定期補充療法の準備を進めるため、導入に要する期間も1〜2ヵ月と母親一人で準備するのと比べ短くなる傾向があります。
 小学4〜5年生になると夏休みの初めに教育入院で注射のやり方を学び、本人が自己注射を開始します。すでに注射されることに慣れている子どもたちは、早く夏休みに戻りたいため自己注射を短期集中してマスターするそうです。
 成人になると定期補充療法に慣れ、親も口出ししなくなるため、自己判断で、出血しない程度に注射回数を減らすケースが稀に出てきます。こうした患者さんに対し、朴先生は、写真やデータで関節障害のリスクを診察のたびに毎回繰り返し説明することで、治療への意識を高めています。

家庭注射ができないときは…

 定期補充療法は家庭注射、自己注射が基本です。ただし、状況に応じて臨機応変に捉えることも大切です。どうしても家庭注射がうまくいかないときは、外来で打ってもらうのもよし。遠方のため通うのが負担なときは近所のかかりつけ小児科医に頼むのも一手。またケースによっては、訪問看護の利用を考えてもいいとのことです。
 「定期補充をしているはずのお子さんが、半年に数回、関節出血で入院したことがありました。さすがにおかしい、家庭で注射をしてもらっていないのではと感じ、退院時に地域医療連携の訪問看護師に入ってもらい注射を依頼したのです。すると、それまで上がらなかった肩が上がるようになるなど、大きな改善が見られました。訪問看護は高齢者向けサービスのイメージがあるかもしれませんが、血友病患者さんも健康保険で利用できます。家庭で十分な協力が得られないときや、親ごさんが出張などの不在時に利用できる仕組みとして覚えておくといいでしょう」。

孤立しないよう、患者さんの横のつながりを作る

 母親が一人で悩み思い詰めることのないよう、朴先生は患者家族同士の横のつながりを作るバックアップも積極的に行っています。
 突然子どもが血友病だと診断された親に対しては、同じ立場の先輩患者家族のメールアドレスを本人同意のもと教え、交流の橋渡しをしています。適切な治療さえすれば怖がる病気ではないことを、同じ立場にある人の口から聞き安心してもらうためです。
 また子育て世代を中心とした患者家族会「ゆうゆう会」を立ち上げ、年に2〜3回ほどバーベキューなど家族ぐるみで参加できる集まりを催しています。この患者会は患者である子どもたちにとっても、家族にとっても大きな心の支えになっています。
 たとえば中学時代に野球部で4番・エースだった大学生と、患者会で出会った10歳の野球少年。それ以降、「血友病でも活躍できるんだ」という希望を胸に、それまで以上に練習に励んでいるそうです。
 家族にとっては、悩みや不安を打ち明け情報交換を行える貴重な場です。「病気を理由に幼稚園への入園を断られてしまったのですが…」「小学校の友だちに病気のことを話しましたか?」
「修学旅行のときの注射はどうしましたか?」などなど。医師には答えられない悩みにも、子育ての先輩がアドバイスをしてくれます。
 「ゆうゆう会は当院の患者さんではなくても誰にでも門戸が開かれていますから、他の患者さん家族と話してみたいという方はぜひご参加ください」と朴先生は呼びかけています。

全国の血友病患者さんに、正しい治療を受けてほしい

 白血病と小児がんが専門だった朴先生が血友病の治療や患者会にも熱心に取り組むようになったのは、7年前。研修医としてスタートを切った奈良県立医科大学附属病院から、大阪市内の別の病院へ異動したのがきっかけでした。奈良医大は国内で唯一のWFH(世界血友病連盟)公認の研修教育施設であり、その最新の治療法を当たり前のものとして見ていた先生にとって、異動先の病院で行われていた血友病治療は愕然とするものだったのです。製剤には感染症リスクがあるとの古い認識のままオンデマンド療法(出血の都度、製剤を投与する療法)を行っていたり、1000単位、2000単位の製剤が登場したにもかかわらず、それを知らずに体重70kgの人に対してわずか500単位の投与しか指示しなかったり…。そもそも、定期補充療法の存在を知らない医師が血友病の診療にあたっていたのです。
 血友病は患者さんの数が少ないため、専門医も少なく、専門でないと医療者でも最新治療の勉強の機会を逸している面はあるようです。「全国には新しい治療法が浸透していない地域も依然あります。それだけに適切な治療を受けるためには、患者さん側が自ら行動を起こし、患者会やインターネットなどの情報を通じて経験豊富な医療機関を探してください」と朴先生は訴えます。
 「“出血したら止血” を繰り返すだけの昔の治療と違い、定期補充療法はその患者さんの未来を見すえた治療法です。だから一人でも多くの患者さんにこの治療を受けてほしいと願っています」。

大阪赤十字病院

大阪赤十字病院 小児科
〒543-8555 大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30
TEL:06-6774-5111(代表)
FAX:06-6774-5131(代表)
URL http://www.osaka-med.jrc.or.jp/
ゆうゆう会のお問い合わせ先
連絡先:朴永東先生 ydpark@aol.com

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