血友病の「最適治療」を知ろう!
創刊記念特集: 血友病における“最適治療”とは

目次

血友病治療は日々進化しています。
それだけに患者さんも、自分が今受けている治療が
最新の知見に基づいているのか、自分にとって最適な治療なのか、
気になるところではないでしょうか。
そこで本誌『ファイン』では、創刊記念特集として
2012年時点における血友病の“最適治療” と今後の治療の方向性、
そして最適治療を受けるための心構えについて取り上げます。
お話しくださったのは血友病の診療経験が大変豊富な
荻窪病院理事長の花房秀次先生です。

花房 秀次先生

荻窪病院 理事長 花房 秀次先生

■PROFILE
はなぶさひでじ
1980年慶應義塾大学医学部卒業、同小児科入局。
1987年より荻窪病院勤務。小児科部長、血液科部長兼任等を経て、2007年同病院副院長に就任。2009年より理事長。
専門は血友病の臨床、HIV感染症、免疫、HIV/HCV感染症。
2010年より慶應義塾大学医学部客員教授も務める。その他、厚生労働省エイズ対策研究事業研究班班員、血栓止血学会標準化委員会委員等。

荻窪病院血液科:血友病患者700人以上(小児から高齢者まで)が登録されており、わが国最大の血友病センターの一つとして活動している。薬害エイズにも長年取り組み、HIVを完全除去した精子を用いた体外受精により100%安全に子どもが持てる方法を開発した。慶應義塾大学微生物教室や国立感染症研究所などとの共同研究により、HIV研究、C型肝炎の治療など多くの課題に取り組んでいる。

止血中心の治療から、出血予防と包括的診療の時代へ

 “最適治療” と一口に言っても血友病治療は過去に非加熱製剤の問題があったため、患者さんの世代によってはC型肝炎やHIVなどの輸血感染症を抱えており、求められる治療の内容は変わってきます。そこで大きく二つの世代に分けて、それぞれの最適治療について話をしていきます。ただ全世代を通じて言えることは、「出血したら止血する時代」から「出血および重症化を予防すると共に包括的に診療する時代」に変化しているということです。
 もしも読者の中に前時代的な治療しか受けていない患者さんがいるなら、この記事をお読みいただき、最適治療を受けるための行動を起こしてほしいと願います。

1985年以前から治療を開始していた世代の最適治療

日本における血友病治療の変遷

 1985年に加熱製剤が登場する以前に非加熱濃縮製剤を用いていた世代では、C型肝炎、HIVなどの感染症が最も深刻な問題で、それが現在も継続しています。
 HIVについては1996年に「カクテル療法」という治療法が確立されたことから死亡率が激減し、現在はコントロール可能な慢性疾患になりつつあります。そのことは喜ばしいのですが、抗HIV剤を飲み続けなければいけないため、今度は抗HIV剤の長期服用による副作用に注意する必要が出てきました。脂肪が内臓にたまり、頬や手足が細くなる「リポジストロフィー」という症状が副作用の代表例です。血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなり、糖尿病も合併して動脈硬化も悪化し、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、腎臓病なども増えるため、これらに対する総合的な成人病対策を行う必要があります。
 またC型肝炎は感染から20年経つと約20%が、30年経つと約30%が肝硬変へ進行することがわかっています。肝硬変になると年々肝臓がんが増えてきます。血友病の患者さんたちが血液製剤によりC型肝炎に感染したのは1980〜85年が多く、感染後30年を迎えるため、肝硬変、肝臓がんの患者さんが増えています。特にHIVとC型肝炎を合併している患者さんでは慢性肝炎の進行が速く肝硬変になりやすいので、注意深く診療しないといけません。
 血友病の定期補充療法(詳しくは次の項参照)については、小児だけでなく成人の患者さんにとっても必要だと考えています。この世代では、すでに関節障害が進行してしまっている患者さんが多いため、関節障害の予防については小児ほど期待できませんが、最も大事なことは頭蓋内出血などの重症な出血が予防されて死亡率や後遺症が低下するかどうかです。アメリカでは、成人の定期補充療法により頭蓋内出血の出現が半分に減少したと報告されました。最近、血友病患者の長期生存が可能になり、高齢化と共に頭蓋内出血の頻度が増えているので頭蓋内出血の合併や重症化を防ぐことができると有用だと考えています。
 まとめますと、成人の患者さんの場合は感染症、抗HIV剤の副作用、C型肝炎、肝硬変など個々の状況に応じた治療と血液凝固因子製剤の定期的な投与、そして関節の評価に基づくリハビリテーションなどが必要です。しかし、血友病に関する診療のほかにも高血圧や肥満、糖尿病など成人病の管理、喫煙や飲酒などの生活習慣の改善などをトータルに行うことが“最適治療” だと言えるでしょう。

1985年以降に治療を開始した世代の最適治療

 次に、1985年以降に治療を開始した若い世代の患者さんの最適治療についてお話をしましょう。
 C型肝炎やHIVの問題を受け1985年には加熱製剤が、1992年には遺伝子組み換え製剤が、2007年には動物性たんぱくをまったく使用していない次世代遺伝子組み換え製剤が登場し、感染症に対する製剤の安全性は大きく改善されてきました。
 製剤自体が安全になったこと、また製造量も増えて安定的に供給できるようになったことで、定期補充療法が普及してきました。従来のように「出血したら止血する」のではなく、定期補充療法はあらかじめ血液凝固因子を補充することで出血と関節障害を防ぐのが目的です。血友病Aなら週3回、血友病Bなら週2回、定期的に製剤を投与します。実際にこの治療を受けている子どもの患者さんたちはほとんど出血もなく、関節障害を起こしません。ですから学校生活などで血友病を意識することなく、他の健常児と同じように運動もできます。一部に制約があるものの、やりたいことにチャレンジできる点が従来の出血時治療との大きな差です。定期補充は現時点での血友病の“最適治療” だと言えるでしょう。
 ただし定期補充療法にも課題はあります。一番大きな問題は、凝固因子製剤の投与を開始して間もなくインヒビターが発生するケースがあることです。
一度インヒビターが発生すると、それまで効果のあった製剤の効果がなくなるだけでなく、出血がひどくなり特殊な治療が必要となります。そして現在のインヒビター治療製剤は、まだ十分な効果が得られていません。インヒビターの発生自体を抑える方法について、検討は始まっています。現在は定期補充療法を開始する目安を2歳前後としていますが、1歳前後の早期から始めればインヒビターの発生が抑えられるのではないかという報告もあります。しかし1歳の乳児に注射をするのは医療従事者でさえ難しく、家族の負担が大き過ぎます。
ポート(皮下埋め込み式カテーテル)を入れる方法もありますが、果たしてそこまですべきかという議論もあり、まだ答えは出ていません。
 定期補充療法のもう一つの課題は、乳幼児に対して家族が注射することの負担です。うまく血管に針が刺せないことが心理的負担になって家族がノイローゼ気味になったり、何回も針を刺し直すことで親子関係が悪化することもあります。プレッシャーへの対処方法は、「定期補充だから絶対に注射をしなければ」と自分を追い詰めないことです。100点満点ではなく、70、80点の出来でも良いのです。注射がうまくできない時は近くの小児科医にお願いする場合もあります。気持ちにゆとりを持って取り組んでいただくことが大切です。

今後の治療の方向性 遺伝子治療も一歩前進

花房 秀次先生 定期補充療法で週に2〜3回の頻度で注射する負担を減らすため、効果が長く持続する製剤の開発を各製薬会社が進めています。現在、国際臨床試験として、血友病Bでは1週間から2週間に1回の注射(血友病Aでは週2回から5日に1回)で済む製剤の有効性が検討されています。私も多くの臨床試験に加わっていますが、良い治療成績が出ているので期待が持てます。2〜3年以内に日本でも認可が下りるかもしれません。
 また将来的な治療の可能性としては、遺伝子治療も視野に入ってきました。
昨年12月に、イギリスの研究チームが血友病Bに対する遺伝子治療の成功を発表しました。これはウイルスベクターという遺伝子の運び屋を利用して血液凝固第IX因子の遺伝子を細胞内に送り込むことにより、血液中の凝固因子レベルを上昇させる治療法です。
まだ効果が何年続くかわからず、遺伝子治療の注射は繰り返し行えないことやインヒビターやがんが発現しないかなど様々な課題はありますが、これらの課題がクリアされた暁には素晴らしい治療法になると期待されています。

地域間格差なく、最適治療を誰もが受診できる医療体制づくりを推進中

血友病治療ネットワーク構想
 さて、このように血友病治療は一歩一歩進んでいますが、最適治療を受けておられない患者さんも少なくないという実態があります。
 その理由として、血友病を専門とする小児科医や内科医が少なく、専門医のいない地域では最新動向を知らずに古い認識のまま治療が行われている場合があるからだと思います。専門医がおらず、包括医療ができる環境も整っていないと、患者さんや家族が不幸なだけでなく、専門外の血友病を自信がないままに診ている医師も不幸です。
 そこで血栓止血学会の血友病標準化委員会では、専門医が少なくても誰もが最適治療を受けられる医療体制づくりを推進しています。
キーワードは「センター化」と「ネットワーク化」です。
 「センター化」とは、血友病治療で実績のある施設を血友病のセンター施設として認定し、血友病患者さんやスタッフをそこに集約する考え方です。センター施設には、血友病治療の専門医をはじめ、血友病に関する豊富な知識と経験を持った看護師、カウンセラー、整形外科医、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカー、薬剤師、歯科医などのスタッフも集約し、包括医療が受けられる施設を目指します。
 しかしセンター施設が遠方であれば、患者さんは頻繁に通うことはできません。そこで必要になってくるのが「ネットワーク化」です。
センター施設が患者さんの居住地域の病院と連携することにより、日常の診療は近隣病院で、専門的な検査や高度な専門医療技術が必要なときはセンター施設で、という治療の割り振りが可能になります。脳出血などが生じた場合は近くの救急病院に搬送し、センター病院から止血治療の指示を出すなどの連携が必要です。
 センター化構想はすでに厚生労働省と血栓止血学会の協議が進み、実現に向けて動き始めています。センター化の整備と共に、私は図に示すような血友病医療ネットワークも推進していく必要があると考えています。また若手専門医の育成にも力を入れています。

賢い患者、プロの患者を目指してください

 最適な治療を受けるためには、患者さん側も自ら努力をすることが必要です。ただ「近いから」「今まで通っているから」という理由だけで病院を選ぶのは間違いです。
 「包括的診療(トータルケア)を受けたい」と申し出て、それが叶わなければ、包括的診療を提供している病院を紹介してほしいと申し出ましょう。
 医者に遠慮は禁物です。自分のために、わが子のために、賢い患者・プロの患者になって、最適な医療を自ら探す努力をしてください。
 より良い医療を受けるためにも、悩みを相談したり最新情報を得るためにも、患者会や母親の会への参加は大変役に立ちます。患者会は各県にありますが活動のレベルはかなりバラつきがあるため、地域にこだわらず、活発に活動している患者会を探して相談すると良いでしょう。
 特に初めて血友病のお子さんを持ったお母さんは大変な不安を抱えているでしょうから、ぜひ患者会に参加されることを勧めます。患者会のサマーキャンプで血友病の子が走り回っているのを見て、安心したという声を耳にします。実際の日常生活に関する先輩ママの話は医療者の話より何倍も説得力がありますから、そうしたピアカウンセリング(共通の経験と関心に基づいた仲間同士の助言・支援)を受けることも大変有用なのです。
 読者の中に、保因者の可能性があり結婚や出産を迷っている女性がいるなら、やはり患者会で実際に元気に過ごしている血友病の子どもたちに会うことをお勧めします。血友病患者さんのQOLが飛躍的に高まっていることがご理解いただき安心される場合も多くあります。
 最後に繰り返しますが、血友病の診療経験の少ない医師にすべてを任せきりにするのはやめましょう。わが身、わが子を守るために自分たちでも最新情報を収集し、主体的に最適治療を受けるようにしてください。

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