インヒビター(Inhibitors)

インヒビター(Inhibitors)とは

体の免疫系が投与された凝固因子を異物(自分ではないもの)と認識してこの因子を壊す抗体を産生してしまうことがあります。その結果、凝固過程の適切な進行を妨げることがあります。体がこの抗体を産生した場合その人はインヒビターを持っているといいます。

インヒビターをはじめから持って生まれてくる人はいません。なぜインヒビターを発生するようになるのかはまだ定かではありません。インヒビターは重症血友病患者さんに最も多く認められます。軽症や中等症の血友病患者さんでは体内に重症の患者さんより多くの凝固因子があるので、普通は投与された因子に対してインヒビターを発生することはありません。重症の第VIII因子欠乏症(血友病A)患者さんの20%から30%と重症の第IX因子欠乏症(血友病B)の最高でも4%の人が人生のある時点でインヒビターを発生します。 ある人は数回の注入後にインヒビターを発生し、ある人は因子投与開始後の何年も経ったあとで発生します。(投与開始後実投与日数十日くらいまでに発生することが多いと言われています。)一部の症例ではインヒビターが何事もなく消えるか、あるいは通常の治療には影響を及ぼさないほど軽微になっていきます。しかしインヒビターを持つ多くの人は他の治療法が必要となります。

インヒビターを発生し易い患者さんとは  

VIII因子欠乏症であること
因子の量が正常の1%以下の場合
他にインヒビターを持つ人が家系にいる場合

米国では数ヶ月に1日の血友病センターの受診の際に採取された血液でインヒビター検査を行います。外科手術やその他の生検、抜歯などの何らかの処置を行う前には必ずこの検査を行わねばなりません。検査では次のことがわかります。

インヒビター検査

インヒビターが存在するか否か
実際のインヒビター値
投与因子に対するインヒビター産生応答の強さ(低いか高いか)

インヒビターのレベルはベセスダ単位(BU)、つまり力価で測定されます。インヒビターレベルは数値で表され、BUが高いほどインヒビターが強く、そして止血に際しては因子の投与効果が低くなります。低い力価とは10BU以下をいい、高力価とは10BUから1,000BU以上をさします。インヒビター産生の高い低いは因子投与に対する応答の程度で決まります。因子が投与されてインヒビターレベルが5BU以下までしか上がらない場合に、インヒビター応答が低い(ローレスポンダー)と評価するわけです。もし、凝固因子が投与されてから体がそれを使用するまでにその大部分をインヒビターが破壊してしまうとインヒビター応答が高い(ハイレスポンダー)と評価されます。インヒビター応答の低い患者さんでは、VIII因子の投与で止血することができます。低/高力価と低/高応答には種々の組み合わせがあります。

血友病のお子さんを持つご両親へ

もしVIII因子投与で効果がえられないと思われる場合や凝固因子投与後出血が止まらなかったり、悪化が見られるようであれば、お子さんはインヒビターを発生している可能性があります。担当医にご相談ください。 血友病治療センターではお子さんが包括外来をうける際、採取した血液についてインヒビター検査を行うことができます。

インヒビターを発生した血友病患者さんを治療するその他の方法

インヒビター患者さんを治療するには2つのアプローチがあります。免疫系によるアプローチでインヒビターの生成を阻止する(免疫寛容療法)、あるいは因子に対するインヒビターの反応経路をバイパスする製剤を使用する方法です。第VIII因子に対するインヒビターの存在下での出血の治療にはいくつかの方法があります。
ブタの第VIII因子(日本ではおこなわれていません)。ブタの第VIII因子はブタの血液から製した血液凝固VIII因子です。ヒトの因子に対して激しく反応する抗体でもブタの因子にはあまり反応しないことがあります。ブタ因子にアレルギー反応を示す血友病患者さんがいるので、この因子の投与に際しては医師の立会いが必要です。
インヒビター迂回活性複合体。これらの複合体は第VIII因子あるいは第IX因子に対してインヒビターを発生した血友病患者さんの出血の治療に使用されます。これらの製剤はヒト血漿由来の凝固因子の複合体を含有しており、免疫系を刺激して第VIII因子に対する抗体を生成してしまうことは少ないです。複合体製剤中の凝固因子は、製造中のコントロールされた活性化ステップにより、部分的に活性化されています。これらの複合体は通常非活性型と活性型の第 VIIと第X因子の両方を含有していて、第IIや第IX因子を含むこともあります。複合体中の活性化された第VII因子と第X因子(VIIaとXa)は第 VIII因子と第IX因子なしでフィブリン凝塊を生成することができます。そのため、インヒビター迂回活性複合体に関する凝固活性単位はしばしば"バイパス活性単位"("bypassing activity unit")と呼ばれます。血液中の第VIIa因子と第Xa因子の半減期は比較的短いのですが、第VII因子と第X因子は活性型と非活性型の両方が存在しているので1回の投与で効果が約12時間持続します。第VII因子と第X因子の非活性型は"備蓄型因子"の役目を果たし、体が必要に応じて活性化します。
遺伝子組換え型血液凝固VIIa因子。凝固カスケードの中でVIII因子とIX因子をバイパスして止血する新しい組換えインヒビター製剤です。これは、全てが活性化型のVII因子ですので血液中の半減期は短く頻回な投与-約2時間毎-が必要です。

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